米国国務省民主主義・人権・労働局
2021年3月30日
エグゼクティブ・サマリー
発表:国務省は、2021年中頃に報告書補遺を公表し、第6部の女性の項目を拡大し、生殖権に関する幅広い課題を取り上げる。
日本は、議院内閣制を採用する立憲君主制国家である。9月16日、自由民主党の新総裁に選ばれた菅義偉氏が首相に就任した。2019年に実施された参議院議員選挙は外国の専門家から自由かつ公正とみなされ、自由民主党と連立政権を組む公明党が安定多数を確保し勝利した。
国務大臣がその長を務める政府機関である国家公安委員会が警察庁を管理し、都道府県公安委員会が都道府県警察を管理する。文民当局は治安部隊に対する実効的な統制を維持した。治安部隊による虐待の報告はなかった。
重大な人権侵害の報告はなかった。
政府には人権侵害を行った可能性のある政府職員を特定し、処罰する仕組みが整備されていた。
第1部 個人の人格の尊重(以下の状況からの自由)
a. 恣意的な人命のはく奪およびその他違法な、または政治的動機に基づく殺人
政府またはその職員による、恣意的、または違法な人命のはく奪は報告されなかった。
b. 失跡
政府当局による、あるいは政府当局の意向を受けた失跡の報告はなかった。
c. 拷問およびその他の残酷、非人道的、または屈辱を与えるような処遇または処罰
法律はこのような行為を禁止しており、政府職員がこうした行為を行ったという報告はなかった。
日本政府は依然として、死刑囚に対し、死刑が執行される日まで執行日に関する情報を事前に提供せず、死刑囚の親族に対しては、死刑執行後、その事実を告知した。政府は、この方針は受刑者に自分の死期を知る苦しみを与えないものであると考えた。
また当局は通常、死刑囚を死刑執行まで単独室に収容するが、親族、弁護士、およびそれ以外の人々による面会を認めている。このような単独室での収容期間は事例によって異なり、数年間にわたる場合もある。ある非政府組織(NGO)関係者によると、死刑となり得る犯罪で訴えられた受刑者は、裁判前も単独室に収容されていた。
刑事免責は治安部隊の中で重大な問題ではなかった。
刑務所および収容施設の状況
刑務所の状況は、全般的に国際基準に合致したものであったが、医療体制が不十分で、冬季の暖房または夏季の冷房に不備のある施設も依然としてあった。
入国者収容施設への長期にわたる外国人の収容は引き続き懸念とされた。入国者収容施設に収容されている1000人超の外国人のうち40%超は6カ月を超えて収容され、中には7年間も収容されている者もおり、被収容者の間でハンガーストライキなどの抗議が増える原因となった。中には女性を含む被収容者を力ずくで管理し、被収容者のプライバシーを保護しなかった収容施設もあった。
受刑者と被収容者は全般的に、弁護士や親族と連絡をとるなどの目的のため、電話を使用することができない。
専門家によると、入国者収容施設の中には、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への懸念から一定の被収容者に対して仮放免を認めたところがあった。しかしNGOは、仮放免を受けた者には就労許可も医療保険も与えられなかったと指摘した。法律の専門家は、受刑者の中にはCOVID-19の世界的流行に関する情報が不足していることに懸念を表明する者もいたと報告した。専門家はまた、入国者収容施設で被収容者が社会的距離を確保するための対策が不十分であることへの懸念を提起した。法務省は、刑務所および入管収容施設内でのCOVID-19感染拡大を防止するガイドラインを策定したと発表した。
物理的な状況:当局は、女性を男性とは別に収容し、刑務所やその他矯正施設および入国者収容施設では、20歳未満の未成年者を成人とは別に収容した。
2018年4月から2019年3月まで、刑務所と入国者収容施設の第三者視察委員会は、重要な懸念として不十分な医療措置を文書に記録した。視察委員会はまた、刑務官に対して人権教育を追加的に行う必要性、高齢者、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、インターセックス(LGBTI)、および障害者である被収容者の特別な要望が満たされていない状況、不十分な冷暖房用品という問題も提起した。法務省によると、2019年の矯正医官の数は290人で、必要とされる定員の約90%だった。視察委員会はまた、被収容者のプライバシー保護への懸念も指摘した。
管理:ほとんどの当局は受刑者と被収容者が司法当局に苦情を申し出、申し立てがあった問題状況の調査を要求することを認めていた。しかし、日本弁護士連合会会長は8月の声明で、当局が入国者収容施設で苦情と調査手続きを管理していたことに懸念を提起した。不服申立人は収容施設職員に苦情を報告することを義務付けられていた。収容施設職員はまた、視察委員会による立ち入り調査の日程決めと委員会が被収容者と面会する時間を決定する責任を負っていた。調査結果については、当局は、最終結論以外の詳細がほとんど書かれていない書簡を受刑者に送っただけであった。
独立した監督:政府は全般的に、選挙で選ばれた公職者、NGO、報道関係者および国際機関による事前に予定されている視察を許可した。法律により、法務省は政府が運営する刑務所および入国者収容施設の視察委員会の構成員を中央政府以外から任命した。警察監督機関である都道府県公安委員会は、留置施設の視察委員会の構成員を警察以外から任命した。当局は視察委員会の構成員選定において、NGOからいくつかの勧告を受け入れた。しかし、日本弁護士連合会会長は、非公開の選定基準と構成員らにより、選ばれた構成員の適任の如何を判断する非政府専門家の能力を妨げているという懸念を表明した。当局は、医師、弁護士、地方自治体職員、地域住民、専門家で構成される委員会が、刑務官の立ち会いなく被収容者と面接することを認めた。委員会が提出した意見に関し、概して真摯(しんし)な検討が行われた。
NGOおよび国連拷問禁止委員会は、視察手続きに引き続き懸念を提起した。例えば、施設当局への面接の事前通知提出が義務付けられていることを懸念として挙げた。さらに、委員会の構成員の選定に透明性が欠けていることに懸念を提起した。
d. 恣意的逮捕または留置・勾留
法律により恣意的逮捕や留置・勾留は禁止されている。罪を犯したか、犯そうとしている、あるいは犯罪に関する情報を保持していると疑われる人物に対して、警察官は呼び止め、職務質問をすることができる。市民社会団体は、警察が外国人に対する民族的プロファイリングおよび監視をやめるよう引き続き要請した。
5月、東京の渋谷署の警察官は、渋谷区の路上で暴行を働いた疑いでクルド人男性を職務質問した。同男性は暴行と申し立てられた行為からけがをしたとして、渋谷署の警察官2人を刑事告訴した。このクルド人男性はまた、その場にいた別の人が撮影した警察から職務質問を受ける様子の動画をオンラインに投稿した。6月上旬にはこの動画をきっかけに約500人が、渋谷署による出身国と人種への差別に抗議するデモを起こした。6月下旬、このクルド人男性は警察による暴力的な職務質問から精神的苦痛を受けたとして、東京都および警視庁に国家賠償を要求する民事訴訟を東京地方裁判所に起こした。
逮捕手続きと被拘禁者の処遇
当局は、正当な権限を持つ当局者が証拠に基づいて発付した令状により公に個人を逮捕し、被拘禁者を独立した司法制度の下で裁いた。被疑者が死刑に当たる罪など特定の罪を犯したと疑うに十分な根拠がある緊急的な事件の場合、法律は事前に令状を取ることなく被疑者の逮捕を認めており、警察に対して逮捕後速やかに令状を取ることを義務付けている。
法律により、被疑者、その親族、または代理人は、裁判所に対して、起訴された被勾留者の保釈を請求することができる。起訴前の保釈は認められていない。NGOと法律の専門家は、自白なしに保釈が認められるのは非常に困難だと述べた。当局は自白しない被勾留者に対して弁護人との接見を制限する傾向にあった。その他の逮捕要素および起訴前の勾留慣行(後述を参照)も自白を促す傾向にあった。検察庁は、2019年に警察が送検した全犯罪被疑者のうち約67%は起訴されなかったと報告した。検察官は残りの約33%を起訴し、有罪となった。法務省は1月、検察官は有罪判決になる可能性が高いと思われる場合のみ被疑者を起訴したと報告した。このような事例のほとんどで、被疑者は自白した。
起訴前に勾留されている被疑者は、取り調べを受けることが法的に義務付けられている。警察の指針により、取り調べ時間は1日最長8時間に制限され、夜通しの取り調べは禁止されている。起訴前の被勾留者は、必要であれば、国選弁護人との少なくとも1回の接見を含め、弁護人と接見することができる。しかし、取り調べ中に弁護人が同席することは許されていない。
法律により、被疑者が逃亡する、あるいは証拠を隠匿または隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある場合、警察は被疑者が弁護人および領事(被勾留者が外国人の場合)以外の人物と面会することを禁止できる(後述の「起訴前の勾留」を参照)。薬物犯罪の容疑をかけられている被疑者の大半を含む多くの被疑者は、起訴前までこの制約を受けたが、収容施設職員立ち会いのもと、親族からの面会を許可された者もいた。犯罪の種類と、当局が親族やその他の者による被疑者への面会を拒否できる期間との間には法律上の関連性はない。しかし、組織犯罪あるいはその他犯罪の容疑をかけられ勾留されている者については、検察官が親族やその他の者との接触が取り調べの妨げになると考えていたため、面会を拒否する傾向があった。
死刑または無期懲役もしくは禁固に当たる罪にかかる事件、もしくは1年以上の懲役もしくは禁固に当たる罪で、故意の犯罪行為により被害者が死亡した事件、あるいは検察による捜査および逮捕による事件において、警察官および検察官による取り調べの全過程の録音録画が義務付けられた。このような事件において、被疑者が取り調べ中に警察官および検察官に提出した供述調書は、録音録画がない場合、原則として証拠として認められなくなった。法律の専門家によると、これは自白の強要や冤罪を防ぐことを目的としている。警察はまた精神に障害のある被疑者の取り調べ過程を録音録画するよう最大限努めなければならない。日本弁護士連合会は、これらの録音録画慣行の好影響を認識しつつも、取り調べが録音録画されるのは日本の刑事事件の3%に過ぎないと指摘した。よって法律の専門家は、特にホワイトカラー犯罪に関連する事件での自白の強要に引き続き懸念を表明した。
起訴前の勾留:法律では、勾留は、ある人物が罪を犯したことを疑うに足りる相当の理由があり、かつ証拠の隠匿もしくは隠滅、または逃亡のおそれがある場合に限られるが、当局は日常的に逮捕から起訴前の最初の72時間まで、警察が運営する留置施設に被疑者の身柄を拘束した。裁判官は逮捕から72時間が経過する時点で被疑者を面接した後、起訴前の勾留期間を10日間ずつ、最長20日間まで延長できる。検察官はこの延長を日常的に請求し、その許可を得た。暴動、外国からの侵略、暴力的な集会などの例外的な事案の場合、検察官はさらに5日間の延長を請求できる。
NGOと法律の専門家は、起訴前に被疑者を代用監獄に勾留する慣行は継続して行われていたと報告した。裁判官が習慣的に検察官の勾留延長請求を認めたがゆえ、外国人を含むほとんどの被疑者の起訴前の勾留は通常23日間続いた。さらに、23日間の勾留期間は、1件の容疑ごとに適用されるので、複数の容疑に直面する被疑者は、長期にわたり勾留されることがある。NGOおよびこの分野の外国の専門家は、代用監獄の被勾留者は、弁護人以外の者との接見は日常的に許されなかったと引き続き報告した。
e. 公正な公開裁判の拒否
法律により、独立した司法制度が規定されており、日本政府は、全般的に司法の独立性と公正性を尊重した。
審理手続き
法律により、公正で、公開された裁判を受ける権利が与えられており、独立した司法制度により、全般的にこの権利は行使された。被告は、法律上有罪と証明されるまで推定無罪とみなされるが、NGOおよび法律家は、裁判前に被疑者に自白を迫る圧力があることから、そうではないと引き続き示唆した。期限付きの在留資格で日本に滞在している外国人被疑者は、在留資格期限が裁判のためには延長されないことから、その有効期限が切れる前に事件を終局させるため、執行猶予付きの判決を交換条件に自白することが多かった。
被告は自らにかけられた容疑について速やかに、詳細な情報を知らされる権利がある。起訴された個人はそれぞれ、遅滞なく裁判を受ける権利(ただし、専門家は、精神疾患を患う被勾留者の裁判は無期限に延期される可能性があることを指摘した)、貧困にある場合に提供される国選弁護人を含めた弁護人を得る権利、ならびに反対尋問の権利が与えられている。重大な刑事事件に関しては裁判員制度が置かれている。被告は自己に不利益な供述を強要されない。刑事事件の被告が外国人である場合は、当局が無償の通訳サービスを提供した。民事事件で被告となった外国人は、通訳費用を負担しなければならないが、裁判官は裁判所の判決を踏まえ、その費用の支払いを原告に命じることができる。
被告は弁護の準備、証拠の提示、および上訴のため、自らの弁護人を選任する権利を与えられている。裁判所は弁護士会を通じて、被告による弁護人の選任を支援することができる。弁護人費用を負担できない場合、被告は国選弁護人を要求できる。
審理手続きは検察側に有利となっている。この分野の専門家は、弁護人が依頼人との面会時の電子的な録音・録画機器の使用を禁止されていることで、相談・助言の有用性が損なわれていると述べた。また法律では、被告側の弁護人が開示手続きに関する厳しい条件を満たす場合を除いて、検察官による資料の全面開示を義務付けていないため、被告側に有利な資料の隠蔽につながる可能性がある。
数名の弁護人および被告は裁判官に対して、裁判中にマスクを外すことや他のCOVID-19感染防止対策を取ることを認めるよう求め、顔の表情が裁判官の証言の評価に影響すること、また顔を覆うことで先入観が生まれる可能性があると主張した。また、顔を覆うことで、被告に対して敵対的な証人が、意図的に根拠のない証言を心理的にしやすくなる可能性があるという懸念を表明した。6月、東京地方裁判所の裁判長は、弁護人の要求で被告人がマスクの代わりに透明なフェースシールドを着用して証言することを認めた。
NGOは、再審の申し立て中であっても、死刑執行は保留されないため、死刑囚の再審手続きについて懸念を表明した。日本弁護士連合会は、刑執行の正当性を疑問視している。
政治囚と政治的被拘禁者
政治囚または政治的被拘禁者が存在するとの報告はなかった。
民事司法手続きと救済
民事事件に関しては、独立した公正な司法制度がある。不正行為の申し立てに対しては、行政による救済措置と司法による救済措置の両方がある。個人は、人権侵害に対する損害賠償、あるいは人権侵害の中止を求める訴訟を国内の裁判所に起こすことができる。
f. プライバシー、家族、家庭、または信書に対する恣意的または違法な干渉
法律により上記のような行動は禁止されており、日本政府がこれらの禁止行為の規定の順守を怠ったという報告はなかった。
第2部 市民の自由の尊重
a. 報道の自由を含む表現の自由
憲法は、報道に対しても同様に、言論と表現の自由を規定し、日本政府はおおむねこうした自由を尊重した。独立した報道機関、効力のある司法制度および機能する民主的政治制度が合わさり、表現の自由を維持した。
言論の自由:政府の相談窓口を設置し啓発活動を推進することで、日本以外の出身者に対するヘイトスピーチの排除を目的とするヘイトスピーチ対策法がある。しかし法律は、言論の自由を阻害しないため、ヘイトスピーチを処罰せず禁止もしていない。法律の専門家は、法律が施行されてからデモにおけるヘイトスピーチの数が引き続き減少していると認めた。その一方で、プロパガンダ、選挙運動、オンライン上でのヘイトスピーチは増加し、専門家によると、特定の民族を対象とした犯罪が依然としてあった。彼らは政府に対して、より効果的な抑止策の導入とヘイトスピーチ事案の調査を求めた。政府は2016年からそのような調査を実施していない。
法律の専門家によると、朝鮮半島の民族、特に朝鮮半島出身の女性や学生に対するヘイトスピーチと憎悪犯罪件数が多かったが、その他の人種や少数民族に対しての事案もあった。法律の専門家は、COVID-19発生後は中国人、そして7月の国立アイヌ民族博物館開業後はアイヌに対するヘイトスピーチが増加したと指摘した。
10月現在、大阪市、東京都、川崎市の3つの地方自治体がヘイトスピーチ防止条例を施行している。1月、川崎市が運営する在日外国人交流施設が、日本に住む朝鮮半島民族に対してジェノサイドを実行すると書かれた脅迫状を受け取った。この事件は、川崎市が公共の場でのヘイトスピーチを繰り返し行った違反者への罰則(罰金)を設けた条例を成立させた最初の地方自治体となった後に起きた。7月、川崎市当局は条例に違反した被疑者を逮捕した。さらに川崎市は10月、ツイッター社に対して市が在日韓国・朝鮮人女性に対するヘイトスピーチと認定した書き込み2件を削除するよう要請した。これは市が条例施行後初めてソーシャルメディア企業に対して行った要請となった。
オンラインメディアを含む出版および報道の自由:独立性のある報道機関は、活発に活動し制限を受けることなく幅広い意見を表現した。
この件に関する立件はなかったが、法律により政府は特定秘密に指定された政府情報を出版もしくは公表した者を告発することができる。有罪判決を受けた者は、最長5年の懲役かつかなりの額の罰金が科せられる。
検閲または内容の制限:国内および国際的な専門家は、政府機関に属する「記者」クラブ制度が検閲を助長している可能性について引き続き懸念を表明した。こうした記者クラブは、省庁などさまざまな組織内に設置されており、フリーランスおよび外国人の記者を含む、記者クラブ非加盟者による省庁などの組織に対する取材を妨げる可能性もある。
名誉毀損・中傷法:名誉毀損は刑事上ならびに民事上の違法行為にあたる。法律は、発言自体の真実性を抗弁として認めていない。政府が本報告書期間中にこれらの法律を乱用し、公的議論を制限した証拠はない。
インターネットの自由
政府はインターネットへのアクセス制限や介入、またはオンライン上のコンテンツの検閲をしなかった。また政府が適切な法的権限なく、個人的なオンライン通信を監視したとの信じるに足る報告もなかった。3月、法務省はインターネットを介した人権侵害件数は2019年に3.9%増加したと報告した。
学問の自由と文化的行事
政府が学問の自由や文化的行事を制限したという事案報告はなかった。
改定版の学習指導要領を使って、文部科学省は引き続き教科書検定と認可を行った。過去同様に、歴史教科書検定は、特に日本の20世紀の植民地支配および軍事に関する歴史の扱いについて、引き続き論争になった。
b. 平和的な集会および結社の自由
憲法により集会と結社の自由が規定されており、日本政府は、全般的にこれらの権利を尊重した。
c. 信仰の自由
国務省の「信仰の自由に関する国際報告書」を参照。
d. 移動の自由
法律により、国内の移動、外国旅行、移住、本国帰還の自由が規定されており、COVID-19対策として実施した日本からの出国および入国に関する渡航制限を除いて、日本政府は全般的にこれらの権利を尊重した。
国内の移動:COVID-19の感染を防止するため、政府は2020年の一定期間、個人に対して都道府県をまたぐ移動の自粛を要請したが、このような要請には法的強制力がなかった。
外国旅行:政府のCOVID-19対策において、4月から9月1日まで、居住者の再入国を含む、全ての外国人の入国を制限した。日本国民は入国制限の対象とならなかった。
e. 国内避難民(IDPs)の状況と処遇
政府は国連の国内避難民に関する指導原則に基づき、全般的に自然災害後の避難所およびその他の保護サービスの十分な提供を行った。1月現在、2011年の東北地方での地震、津波および原子力発電所の事故の後、709人が仮設住宅で生活している。
f. 難民の保護
日本政府は、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)およびその他の人道支援組織と協力して、難民、庇護申請者、無国籍者、およびその他の関係者に保護と援助を行った。
移住者、難民、無国籍者に対する虐待:NGOと市民社会グループは、難民および庇護申請者の無期限の収容および収容施設の環境に懸念を表明した。法律の専門家とUNHCRは、長期にわたる収容は、たいていの場合、医療上の仮放免が許可されることになる健康上の懸念を意図したハンガーストライキなどの抗議を収容者たちの間で引き起こしたと指摘した。法務省出入国在留管理庁の3月の報告書によると、当局は入国者収容施設から被収容者数人を食事および医療介入を拒んだため仮放免した。法律の専門家は、9月現在で198人の被収容者が収容に抗議するため各地の収容施設でハンガーストライキを実施していると報告した。
8月、国連人権理事会の恣意的拘禁に関する作業部会(以下「作業部会」)は、イラン人とクルド人の難民認定申請者を4月と6月まで計5年近く収容していたのは恣意的であると判断した。収容は国内法に基づくものだと政府が異議を唱えたにもかかわらず、作業部会は収容が必要性と合理的根拠を欠いていると主張した。
6月、入国者収容施設での長期収容および劣悪な生活環境に対応する法務大臣の有識者会議は、国連作業部会および日本弁護士連合会の勧告を考慮した提言書を提出した。国外退去命令を受けた人は退去を拒否する権利があり、ほとんどが自国に戻る恐れや日本国内に家族がいることから退去命令を拒否した。6月に発表された法務省の統計によると、2019年に国外退去命令を受けた大多数が退去命令を拒否した。国外退去命令を拒否した60%が難民認定申請の手続き中だった。法律により難民申請中は、政府は国外退去命令を受けた人を退去させることはできない。
10月、日本弁護士連合会会長は政府に対して、作業部会の判断に真摯に対応し、出入国管理法を適切に改正するよう強く求めた。しかし、法務大臣は同月、長期収容問題は国外退去命令を受けている人が命令を受け入れれば解消するものと公言した。
庇護へのアクセス:法律は、庇護の付与あるいは難民の認定を規定している。しかし日本の難民認定審査手続きは厳格で、政府は2019年、申請1万375件中44件(2018年は1万493件中42件)の申請を認めた。NGOとUNHCRは、低い認定率に懸念を表明した。市民社会グループと法律の専門家グループは、申請者が申請を自ら取り下げ国外退去命令を受け入れるよう誘導する厳しい審査手続に懸念を表明し、特に政府が難民の主張を裁定する際に使う「迫害の恐れ」の解釈は非常に厳しいものだったと主張した。市民社会グループは、申請者が難民認定を受けるのに平均3年を要し、異議申し立てに係る事案の中には10年かかっているものもあると報告した。
入管当局は難民認定の第1回目の審問を実施した。難民認定および庇護申請者は、第1回目の審問への弁護士の参加を認められなかった。後見人のいない15歳以下の子どもや障害者など弱い立場にいる人は例外で、第1回目の審問に弁護士の参加が認められる場合がある。しかし法律の専門家は、政府が第1回目の審問に弁護士の参加を許可した事例は1件しかなかったと報告した。
入管当局はまた手続きに関する問題について申請者からの苦情を審査する審問も行った。
(法律によって)法務大臣が法務省以外から任命する難民審査参与員は、第1回目の審問で難民認定が不認定となった人の異議申し立てを審査する第2回審問を実施した。参与員の前に出頭する人は全員弁護士をつける権利を有した。法務省によると、参与員には、大学教授、元検察官、弁護士、元外交官、NGO代表が含まれていた。法務大臣は参与員の意見を聴くことが義務付けられているが、意見の受け入れは義務付けられていない。法律の専門家は、法務省の統計では2019年に異議を申し立てた8291人の申請者のうち1人だけしか難民認定されなかったことを挙げ、審査制度が公平な判断を下しているか否かに疑問を呈した。
法的支援を求めるほとんどの難民および庇護希望者は、政府の援助による法的支援を受けることができなかったので、日本弁護士連合会が、経済的余裕のない申請者に対して無償で法律支援を行うプログラムに、引き続き資金を提供した。
違法あるいは在留許可書なしで日本に入国した難民申請者は収容の対象となるが、難民申請者は庇護申請を提出する前に次第に有効なビザを持つようになっていた。法務省は2019年、一時滞在者や一時就労者を含む約97%(1万375人の申請者のうち1万73人)が合法的なビザを持っていたと発表した。
2019年、政府は日本に合法的に滞在していない数人を含む、難民認定されていない37人の申請者に対して、人道的理由に基づき滞在許可を与えた。残りの申請者は国外退去の対象となる可能性があったが、難民認定を再申請できた。法務省によると、2019年の自発的な本国帰還件数は8967件、不本意な国外退去件数は516件だった。2019年12月現在、国外退去命令の対象となる2217人が収容施設外で生活することを許可された。国外退去命令を受けた942人は収容施設に留置された。収容されうる期間に制限は設けられていない。法務省は、COVID-19への対応として、ほとんどの被収容者が感染拡大を防ぐために収容施設外への滞在を許可されたと述べた。
通常の庇護申請制度に加え、政府は、第三国定住事業で難民を受け入れることができる。4月に政府は、この事業で受け入れる難民数の上限を30人から60人へと引き上げた。NGOはこれを評価したが、受け入れる難民の全体数が低いことに依然として懸念を表明した。また、COVID-19関連の懸念により引き上げの実施が遅れた。およそ300人のロヒンギャ族イスラム教徒もまた、人道的理由による特別在留許可あるいは、ビルマでの民族的および宗教的迫害を理由に、一時滞在の在留資格により日本で生活していた。難民認定を受けたロヒンギャ族は20人以下だった。同数のロヒンギャ族の庇護申請者が収容施設から仮放免となったが、就労が許可されておらず、再度収容される可能性がある。
法務省、日本弁護士連合会、およびNGO「なんみんフォーラム」は、成田空港、羽田空港、中部空港、および関西空港に到着し、仮上陸または仮滞在の許可を得た難民認定申請者に対し、住居、日本で生活するための助言および法的サービスを提供する収容代替措置事業を引き続き協力して実施した。この事業は、日本政府が助成する市民組織の資金および寄付金で賄われている。NGOは、2018年7月から空港や港湾での難民申請者数に関する政府の統計がないことに懸念を表明した。
移動の自由:在留許可を与えられた庇護申請者は、居住場所の当局への報告などいくつかの条件付きで、好きな場所での定住と日本国内の自由な移動が認められている。収容施設内および国外退去命令を受けた庇護申請者は、人身取引の被害者である、あるいは法務省が特別の理由に基づいて判断した他の状況において、病気での仮放免が認められる。仮放免は、就労を許可しておらず、月に1度出入国在留管理局への出頭、居住する都道府県以外への移動の事前届け出、居住先の変更があった場合の出入国在留管理局への届け出などいくつかの制限が設けられている。仮放免制度はまた、個人により異なるが、最高300万円(2万8000ドル)の保証金が義務付けられる。仮放免の要件に従わない難民あるいは庇護申請者は、収容施設に戻され、保証金が没収の対象となる。法律家は、最近の事例では、不法就労で摘発された者が最低3年以上の収容処分を受けたと指摘した。
難民と認定された人は、一定の要件を満たすという条件で、国内外を自由に移動することができる。
雇用:難民申請時に有効なビザを持っている、かつ当局が難民認定される可能性があると判断した申請者は、難民と認定される可能性があるとされた日から2カ月以内、あるいは8カ月経過後に就労許可の申請を行うことができる。個人が収入を得る活動に従事するには、ビザの有効期限内に許可を申請しなければならない。就業には就労許可が必須となる。許可を得るまでの間、経済的に困難な状況にある一部の申請者に対し、政府が出資するアジア福祉教育財団の一部門である難民事業本部が、少額の給付金を支給した。
難民と認定された人は、全ての労働権を有する。
基本的なサービスへのアクセス:就業する権利を得る条件を満たす人を除き、難民申請者は健康保険もなく、限られた社会保障しか受けることができなかった。こうした状況下では、過密状態の政府のシェルターや、違法就労、政府の財政援助、またはNGOの援助に頼らざるを得なかった。
難民認定を受けた人は、しばしば他の外国人が経験するものと同様の、住居、教育、雇用の機会を制限される差別を受けた。
一時的な保護:政府は2019年、難民と認定されない可能性のある37人を一時的に保護した。37人のうち27人は日本人と結婚している、あるいは子どもが日本人だった。7人のシリア人を含む残りの10人は、母国での状況から在留許可を与えられた。彼らはコミュニティーでの居住・就労が可能となった。
g. 無国籍者
法務省は、移民に関する規定に基づき、2019年には646人が無国籍だったと発表した。しかし法律の専門家は、この数字は合法的な滞在許可証を持つ無国籍者に限定されているため、無国籍者の数は公式の数字を上回る可能性があると主張した。
法律により、20歳以上の無国籍者は、継続して5年以上日本国内に住んでいること、素行が善良であること、財政的安定があることなど一定の基準をみたせば、帰化する資格が与えられる。
1月、東京高等裁判所は、難民認定を拒否された無国籍男性への国外退去命令を無効とする判決を下し、「男性が地球上で行き場を失うことは明白」と付け加えた。さらに裁判所は、男性が母国であるジョージアでは生活を築けないことを認め、国外退去命令は「欠陥がある」と判断した。
第2次世界大戦終結時、日本による朝鮮統治が終わると、日本国籍を剥奪された日本生まれの朝鮮半島に出自のある子どもは、外国人とみなされている。このような人たちは選挙権を持たず、公職に就けない場合もある。朝鮮半島の南北分断後、韓国にも北朝鮮にも忠誠を誓わなかった人たちは、「朝鮮半島(コリアもしくは朝鮮)出身市民」という特別区分に該当する。こうした人たちは、法律の専門家によって事実上の無国籍者とみなされており、韓国籍を要求するかあるいは日本国籍を求めることを選択できる。こういった朝鮮半島に出自のある人たちは旅券を所持しないが、政府が発行する一時渡航書で海外に渡航することができる。
日本に居住するロヒンギャ族に子どもが生まれた場合、依然として事実上無国籍となる。
第3部 政治プロセスに参加する自由
法律により、日本国民には、平等な普通選挙権に基づき、無記名で実施される、自由かつ公正な選挙により政府を選ぶ力が与えられている。
選挙と政治参加
最近の選挙:国際的な専門家によると、日本政府が2017年に実施した衆議院の解散総選挙は、自由かつ公正であった。2019年7月に実施された参議院議員選挙は、自由かつ公正とみなされ、自由民主党と、連立政権を組む公明党が安定多数を確保し勝利した。
女性およびマイノリティーグループの参画:女性およびマイノリティーグループの政治過程への参画を制限する法律はなく、実際に参画した。女性の投票率は男性と同等か、もしくは高い状況にあった。総務省のデータによると、1960年代後半以降に行われた全ての国政選挙において、女性は投票者の多数を占めてきた。しかし、女性はどのレベルにおいても、この傾向を反映した比率では選出されていない。
法律は各政党に対して、国政および地方選挙の候補者名簿において、男性と女性の候補者数を同等にするよう最大限の努力を求めている。衆議院で女性は465議席中46議席を占め、前年より1議席減らした。参議院では引き続き、245議席中56議席を占めた(前年と同数)。21人の閣僚のうち女性は2人であった。与党・自由民主党の党四役に女性はいなかった。2019年末時点で、47都道府県の地方議会議員2668人のうち女性は303人だった。47都道府県のうち女性知事は2人で、女性市区町村長は1740人中35人だった。
選挙に立候補する障害者の数は非常に少ない。2019年7月の参議院選挙では、車いすを使う2人の候補が国会に選出され、2005年以降に選出された初の車いす議員となった。
民族に基づくマイノリティーグループの中には混合民族の血を引く人で国会議員を務める人もいたが、マイノリティーであることを自ら明らかにしない人もいるため、その数を把握するのは困難であった。
第4部 政府の汚職と透明性の欠如
法律により、公務員による汚職には刑事罰が規定されており、日本政府は全般的に法律を効果的に執行した。文書に記録された公務員の汚職事例があった。
独立した立場の学識経験者は、政・官・財のつながりは密接であり、汚職は依然として懸念される問題だと述べた。NGOは、退職した政府の幹部職員が、政府との契約に頼る民間企業および政府が助成する団体で高報酬の職を得る慣行があることを引き続き批判した。公務員が関与した財務会計に関する不祥事が捜査された。
汚職:3月、海上自衛隊は、過去10年にわたり機密情報を漏えいし、風俗店を営業したことで法律に違反したとの疑いで、自衛官を免職したと発表した。男性はその後自白し、副収入を得たかったと述べた。
6月、河井克行衆議院議員と河井案里参議院議員夫妻は、河井案里の選挙で有権者に現金を渡した容疑で逮捕、起訴された。夫妻は無罪を主張したが、国会議員にとどまる意向を発表した一方で自由民主党を離党した。6月、河井案里の側近は有罪判決を受け、選挙運動員に違法な支払いをしたとして懲役1年6カ月の判決を受けた。判決は控訴された。
資産公開:法律により、国会議員には、所得、および不動産、有価証券ならびに輸送機の所有状況を含む資産(ただし普通預金を除く)の公開が義務付けられている。地方条例は、47都道府県全ての県知事、県議会議員、市長および主要20都市の市議会議員に対して、所得および資産の公開を義務付けている。残る約1720の市区町村の議会議員に対しては、同様のことは義務付けられていない。虚偽の公開をした場合の罰則はない。同法は、選挙で選ばれない公務員には適用されない。これとは別に、内閣の規範は、閣僚、副大臣、および大臣政務官に対して、本人、配偶者および扶養する子の資産を公開するよう規定している。
第5部 人権侵害の疑いに対する国際機関および非政府機関の調査に対する政府の姿勢
国内外の多くの人権団体は、全般的に、政府による制約を受けずに活動し、人権侵害の事例について調査し、調査結果を公表した。政府関係者は、通常協力的であり、こうした団体の見解に対応した。
政府の人権機関:法務省の人権相談所が全国300カ所以上に設置されていた。約1万4000人のボランティアが、直接面談して、あるいは電話やインターネットを通じて質問に答え、秘密厳守で相談に応じた。50カ所の相談所では、10カ国語での相談が可能であった。こうした相談所は、問い合わせに対応したが、関係者の承諾がなければ個人や公的機関による人権侵害を調査する権限がない。相談所は助言と仲裁を行い、児童相談所や警察など他の政府機関と連携する。地方自治体には、さまざまな人権問題を扱う人権担当部署が設置されている。
法務省によると、全国の地方法務局は2019年、1万5420件の人権侵害事例の救済手続きを開始した。そのうち1985件はオンライン上の人権侵害で、454件はセクシュアルハラスメント事例だった。法務省が公表した一例では、ある地方法務局は、母親からの相談を受け、調査を行い、小学生の男子児童の動画が本人や母親が知らない間に撮影・投稿されていたことを突き止め、動画共有プラットフォーム運営会社に対し同児童の動画を削除するよう要請した。同地方法務局は、このような動画の投稿をプライバシーの侵害かつ名誉毀損と認定した。複数の動画共有運営会社は、要請を受け、動画削除を行った。
第6部 差別、社会的虐待、人身取引
人種、民族、国籍、性的指向、性同一性に基づく差別は禁止されていない。
女性
強姦および配偶者からの暴力:法律により、被害者の性別を問わず、さまざまな形態の強姦が犯罪とされている。また、18歳未満の未成年者に対する監護者による強姦も犯罪とされている。法律は、配偶者間の強姦可能性を否定しないが、婚姻が破綻している状況にある場合(正式な離婚または別居など)を除いて、そのような判決を下した裁判所はこれまでにない。法律は、強姦の有罪判決に5年以上の懲役を義務付けている。検察官は、暴力または脅迫があったこと、あるいは被害者が抵抗できなかったことを証明しなければならない。配偶者からの暴力も犯罪にあたり、被害者は裁判所による保護命令を申し立てることができる。暴行加害者は有罪になると、2年以下の懲役、もしくは少額の罰金が科せられる。人の身体に傷害を加えた者は、有罪となった場合、15年以下の懲役、もしくは少額の罰金が科せられた。保護命令に違反した者は、1年以下の懲役、もしくは少額の罰金が科せられた。
警察庁の統計によると、7月と8月の女性の自殺率は、2019年の同期と比較して40%上昇した。厚生労働省の委託を受け7月以降の自殺者の動向を分析した自殺対策推進センターは10月、家庭内暴力(DV)の激化、子育ての負担増、経済的困難―いずれもCOVID-19の影響による―などに加え、ここ数カ月間での有名人の相次ぐ自殺の影響により、同居人がいる女性、無職の女性、10代の少女の自殺が増加している可能性があると述べた。
10月1日、内閣府は、男女共同参画局の暴力対策推進室を男女間暴力対策課に格上げした。橋本聖子大臣と加藤勝信官房長官は、DVを含む性犯罪や暴力に対する政府の取り組みを強化するための変更であると発表した。同課は、カウンセリングサービスや民間支援団体との連携を強化していく予定である。
10月に内閣府の男女共同参画局長が確認したところによると、5月と6月に全国の政府相談機関に寄せられたDVに関する相談は、2019年の同期に比べ1.6倍になった。局長は、DV事件の件数が増加し深刻度が増していることについて、COVID-19に起因する将来の生活に対するストレスや不安が原因ではないかとの懸念を示した。その対策として、内閣府男女共同参画局は4月、ホットラインを24時間体制に延長し、5月には日本語と10カ国語でのソーシャル・ネットワーキング・サービスによる相談窓口を追加した。総務省は、COVID-19の経済的救済措置として、DVから逃れてきた被害者に、1人当たり一律10万円(920ドル)の一時給付金を支給することにした。しかしNGOからの報告によると、支給要件が厳しいため、一部の被害者は支給を受けることが困難だった。
2019年の強姦訴訟におけるいくつかの無罪判決は、このような事件における高い法的基準と訴追負担に、国会議員と国民の注目が集まった。3月、名古屋高等裁判所は、19歳の娘を強姦したとして起訴された父親に対する、下級審での議論を呼んだ無罪判決を覆した。高等裁判所は、娘には服従する以外に選択肢がなかったと結論づけて父親を有罪とし、懲役10年の判決を言い渡した。父親は最高裁判所に上告した。
6月、法務省は、性犯罪および暴力対策強化の一環として、全ての性犯罪に関する刑法の改正案を検討する有識者会議を発足させた。有識者会議のメンバーには、性的虐待の元被害者、弁護士、学者、政府関係者が含まれる。
強姦および配偶者からの暴力は、届け出がかなり少ない犯罪である。この分野の専門家は、女性が強姦の届け出に消極的なのは、非難されることへの不安、公の場で辱めを受けることへの恐れ、被害者支援の不備、警察の対応の際の2次被害の可能性、強姦被害者に対する共感を欠く裁判手続きなどさまざまな要因にあるとした。
生活の本拠を共にする交際相手、配偶者、元配偶者からの暴力の被害者は、政府あるいはNGOが運営するシェルターにおいて保護を受けることが可能であった。
セクシュアルハラスメント:2007年に男女雇用機会均等法が改正され、職場でのセクシュアルハラスメントに対する予防措置を講じることが事業主に義務付けられてから、セクシュアルハラスメントは一般的に職場の問題として認識された。職場におけるセクシュアルハラスメントは依然としてあった(第7部d. を参照)。
セクシュアルハラスメントは社会でも根強く残った。最も多く見られた例としては、地下鉄の車内で男性が女性の体を触る痴漢行為だった。多くの主要鉄道路線では、痴漢対策として女性専用車両を導入したが、1年を通して痴漢行為は続いた。
4月、自民党の衆議院議員が10代の性的虐待被害者のための施設を視察した。視察中に元文部科学大臣が未成年の少女の腰に手を当てたという疑惑をはじめとして、議員たちは性差別的な言動やハラスメントで非難された。その後、元文部科学大臣は「(少女に)不快な思いをさせてしまった」と謝罪したが、少女の腰に手を当てた記憶はないと付け加えた。当時の安倍首相も、自民党党首として元大臣に代わり謝罪した。
人口抑制の強制:政府当局による強制中絶や不本意な避妊手術に関する報告はなかった。
差別:法律により性別による差別は禁止され、全般的に女性には男性と同じ権利が与えられている。内閣府の男女共同参画局は引き続き、政策を検討し、その進捗状況を監視した。
法律やそれに関連する政策にもかかわらず、NGOは引き続き、性差別撤廃措置の実施が不十分であるとし、法律における差別的な条項、労働市場での女性に対する不平等な扱い(第7部d. を参照)、選挙で選ばれた高位の議員の中に女性が少ないことを指摘した。
NGOは政府に、選択的夫婦別姓制度の採用を引き続き要請した。戦後の憲法では男女平等が定められており、関連する法律では、夫婦のどちらかの姓を二人の法的な姓とすることができるとされている。ただし、夫婦別姓は法的に認められていない。政府によると、結婚した夫婦の96%が夫の姓を採用している。専門家は、この法律により女性に偏って生じる職場での不便さや個人のアイデンティティーの問題を挙げた。
いわゆる「ポテトサラダ論争」で、ポテトサラダを手作りせず、出来合いのものを買おうとした乳幼児を連れた女性を、年配の男性が叱るのを聞いた個人がソーシャルメディアに投稿したことで、女性蔑視が蔓延しているのではないかとの反発が広がった。報告によるとその男性は、女性が自分でポテトサラダを作らないことで、いい母親ではないと女性を叱りつけた。報道機関は、このコメントが多くの反響を呼んだのは、多くの女性が同じような経験をしているからではないかと推測した。ある著名な新聞社は、このような発言の背景には男性の女性蔑視的な態度があると指摘し、女性が劣っているという考えが社会の根強い底流にあると述べた。
子ども
出生届:法律では、子どもの父親が日本人でその子の母親と結婚しているか、子どもを認知している場合、子どもの母親が日本人である場合、または子どもが日本で生まれ、その両親が不明あるいは無国籍の場合に、生まれた子どもに日本国籍を認めている。また法律は、出生時には国籍を持たないが、出生後3年以上連続して日本に居住している者にも市民権を与える。法律により、国内で生まれた子の場合は14日以内に、国外で生まれた子の場合は3カ月以内にそれぞれ出生届を出すことが義務付けられており、この期限はおおむね順守された。提出期限を過ぎた出生届も受理されたが、軽微な罰金が科せられた。
法律により、個人は出生届に子が嫡出子か非嫡出子かを明記することが義務付けられている。法律は、離婚成立から300日以内に生まれた子は離婚した男性の子であると推定しており、そのため、正確な人数は不明だが、子どもの出生届が出されず無戸籍となる状況が発生している。
子どもに対する虐待:児童虐待の報告件数は引き続き増加したが、NGOはその一因をCOVID-19による外出自粛策にあるとした。国会議員は、子どもに対する性犯罪や暴力について懸念を示した。公式データによると、2019年に警察が捜査した児童虐待の件数は1957件で、前年に比べ42%増加した。内訳は身体的暴力が1629件、性的虐待が243件、心理的虐待が50件、育児放棄が35件だった。
教師による性的虐待の報告が引き続きあった。文部科学省によると、全国各地の教育委員会は2018年4月から2019年3月までの間に、児童にわいせつ行為をしたとして、これまでで最も多い公立学校の教員280人を懲戒処分とした。これは前年より70人の増加である。同省は、懲戒処分を受けた教師の57%を教職から解雇した。法律上、教員免許は無効にはなるが、3年後に再び教員免許を取得することができる。9月、保護者団体は、子どもへのわいせつ行為で解雇された教員への教員免許再交付を禁止する法改正を求める約5万4000人の署名を同省に提出した。
スポーツにおける体罰は長年懸念されてきた。6月に発表された報告書は、子どものアスリートに対する組織的な体罰が広く行われていると詳説した。4月に制定された法律は、スポーツでの虐待を含む体罰の禁止を定めたが、加害者側にこの法律制定の認識が大きく欠けているとNGOは指摘し、同法の団体スポーツへの適用が明示されていないため、その実効性が損なわれていると主張した。さらに、政府やスポーツ団体は同法の順守を確保する措置を講じておらず、子どもが必ずしも利用できるとは限らない郵送やファックスで訴えるよう義務付けており、虐待の報告が限定されている場合もある。
子どもはまた、インターネットを通じて人権侵害の対象となった。小学生の写真や動画を、本人の同意なしに公共の場で公開するなどの違反があった。政府はサイト運営者に削除を要請し、報告によると多くのサイトがこれに応じた。
未成年者の結婚、早婚および強制婚:法律は、婚姻適齢について、男性は18歳以上、女性は16歳以上と規定している。20歳未満の者は、少なくとも両親のいずれかの同意がなければ結婚できない。男女の婚姻年齢を共に18歳とし男女間の婚姻開始年齢を統一する法律は、2022年に施行される。
子どもの性的搾取:児童買春は違法であり、懲役もしくは少額の罰金を含む罰則に処せられる。法定強姦に関する法律は、同意の有無にかかわらず13歳未満の少女との性交を犯罪としている。法定強姦をした者は3年以上の懲役刑に処せられ、法律は執行された。加えて、法律や条例は、未成年者の性的虐待に対処する。児童ポルノの単純所持は引き続き犯罪となる。児童ポルノの商用化は引き続き違法であり、3年以下の懲役もしくは少額の罰金に処せられる。警察はこの犯罪の厳重な取り締まりを続け、ソーシャル・ネットワーキング・サービスを利用した性的搾取の事例が引き続き増加していると指摘した。NGOは、予防的な取り組みは加害者より被害者を対象としたものが多いことに引き続き懸念を示した。
引き続き行われている「援助交際」や、出会い系、ソーシャル・ネットワーキング、「デリバリー・ヘルス」などのウェブサイトの存在が、性的搾取を目的とする児童の人身取引、およびその他の商業的性産業を助長した。NGOは、コロナ禍による失業や外出自粛策がオンラインによる子どもの性的搾取を助長したと報告した。成年男性と未成年の少女を結びつけるデートサービスやポルノ強要などの性的搾取を目的とする児童の人身取引「JK(女子高生)ビジネス」を取り締まる関係府省対策会議は、引き続き取り締まりを強化した。2019年、当局は全国でこのような事業を行う162カ所を特定した。これは、前年から18%の増加となった。JKビジネス関連の不特定犯罪活動に関与した疑いがある8人が逮捕され、2018年の69人から減少した。主要7都道府県には、JKビジネスの禁止、18歳未満の少女による「援助交際」の禁止、またJKビジネス営業者に対して各都道府県の公安委員会に従業員名簿を登録することを義務付ける条例がある。「JKビジネス」で働く少女を支援するNGOは、これらの事業と買春による子どもの商業的性的搾取の関連性を報告した。
日本は、児童ポルノの製造および人身取引犯による子どもの搾取の現場であった。
性描写が露骨なアニメ、マンガ、ゲームには暴力的な性的虐待や子どもの強姦を描写するものもあるが、日本の法律は、こうしたアニメ、マンガ、ゲームを自由に入手できるという問題に対処していない。
国務省の「人身取引報告書」を参照。
国際的な子の奪取:日本は、1980年に採択された「国際的な子の奪取の民事面に関する条約(ハーグ条約)」の締約国である。「ハーグ条約の順守状況に関する国務省の年次報告書」を参照。
反ユダヤ主義
日本に居住するユダヤ人の総人口は、およそ3000人から4000人である。反ユダヤ的な行動の報告はなかった。
人身取引
国務省の「人身取引報告書」を参照。
障害者
法律により、身体障害者、知的障害者、精神障害者、あるいはその他の心身に影響を及ぼす障害のある人たちに対する差別は禁止されており、公共および民間部門における障害を理由とする権利および利益の侵害は禁止されている。同法は、雇用、教育、医療およびその他のサービスの提供に関し、公共部門には合理的配慮の提供を義務付け、民間部門には努力義務を規定している。法律は、差別を経験した障害者の救済を規定しておらず、また違反した場合の罰則を設けていない。権利擁護団体は、COVID-19の大流行により障害者の失業が増加したことを報告した。厚生労働省の報告によると、2月から6月までに1100人以上の障害者が解雇され、前年同期に比べ約150人増加した。(第7部d. を参照)。
公共建築物の建設プロジェクトでは、障害者のための設備を整備することがアクセシビリティに関する法律で義務付けられている。政府は、病院、劇場、ホテル、およびその他の公共施設の経営者が、障害者用の設備を改善または設置する場合には、低金利の融資および税制上の優遇措置を認めることができる。5月、政府は法律を改正し、公立の小中学校の校舎にアクセシビリティを義務付けた。それにもかかわらず、一部の公共サービスについては障害者の利用が制限された。
障害者の虐待は深刻な懸念事項であった。家族、障害者福祉施設職員および雇用者からの虐待を経験した障害者は、全国でみられた。民間の調査によると、障害のある女性に対する差別や性的虐待があった。国会議員は、特に障害者の親族、教師、スポーツコーチ、介護施設のスタッフによる障害者に対する性犯罪や暴力について懸念を表明した。
NGOは、障害者は不名誉なものとみなされ、一般の人から隔離される傾向にあったと引き続き懸念を表明した。統合教育を提供した学校もあったが、障害のある子どもは一般的に特別支援学校に通学した。
障害者権利擁護団体の報告によると、女性の障害者は男性の障害者に比べて、高い失業率、支援への不十分なアクセス、職場での継続的なハラスメントなどの虐待や差別を受けた。精神衛生ケアの専門家は、精神障害への偏見を軽減し、うつ病やその他の精神疾患は治療可能な、生物学に基づく疾患であることを一般の人々に知らしめる政府の努力が十分でなかったと主張した。
国籍・人種・民族に基づくマイノリティーグループの人たち
マイノリティーグループの人たちは、その程度はさまざまであるが社会的差別を受けた。
法律は部落民(封建時代に社会的に疎外された者の子孫)に対する差別の問題に取り組むことに特化している。この法律は、国および地方公共団体に部落差別について調査し、啓発教育を行い、相談体制を充実させるよう義務付けている。
部落民の権利擁護団体は引き続き、多くの部落民が社会経済的状況の改善を実現したにもかかわらず、雇用、結婚、住居、不動産価値評価の面での差別が横行している状況が続いたと報告した。公式に部落民というレッテルを貼って部落出身者を識別することはもうなかったが、戸籍制度を利用して部落民を識別し、差別的行為を促すことが可能であった。部落民の権利擁護団体は、多くの政府機関も含め、就職希望者の身元調査のため戸籍情報の提出を求めた雇用者が、戸籍情報を使って部落出身の就職希望者を識別・差別することがあるかもしれない、と懸念を表明した。
日本で生まれ、育ち、教育を受けた多くの外国人を含む、日本で永住権を有する外国人と帰化した日本人は、差別に対する法的な保護措置があるにもかかわらず、住居、教育、医療、および雇用の機会の制限など、さまざまな形で根深い社会的差別を受けた。外国人や、「外国人のように見える」日本国民は、ホテルやレストランなど一般の人々にサービスを提供している民間施設への入場を、時には「外国人お断り」と書かれた看板によって禁じられたと報告した。法律の専門家は、このような制限が法的に禁止されていないと指摘した。
朝鮮半島に出自のある人たちの社会的受容が向上した兆候はなかった。朝鮮半島に出自のある人たちのコミュニティーの複数の代表は、公共の場とソーシャル・ネットワーキングのウェブサイトで朝鮮半島に出自のある人たちに対するヘイトスピーチが続いたと述べた。福岡法務局は8月、「在日特権を許さない市民の会(通称「在特会」)の桜井誠会長(当時)が2019年に行った演説をヘイトスピーチと認定した。演説で桜井会長は、北朝鮮政府の在日本朝鮮人総連合会が運営する北九州市の学校に通う生徒を対象に、「日本から出て行け」と発言した。桜井会長は、7月の東京都知事選に外国人生活保護費支給の廃止を掲げて出馬し、17万8784票を獲得して5位となった。専門家は、彼の選挙演説がマイノリティーグループの人たちの安全を脅かし、彼らに対する差別を助長する可能性があると懸念を表明した。帰化しないことを選択した朝鮮半島に出自のある人たちは、公民権および政治的権利の面で困難に直面し、職場や、住居、教育、その他の給付を得る上で頻繁に差別を受けた。
6月、公共放送局であるNHKは、背景説明を欠いた侮辱的で無神経な風刺画を使用して人種差別をテーマにした番組を放送し、非難を受けた後に謝罪した。語りの声は、日本のアニメでよく使われる悪役の声で、映像では、黒人の男女は怒りっぽく、攻撃的で、身なりが乱れているように描かれ、白人のキャラクターは無邪気で身なりが良いように描かれていた。NHKは謝罪するとともに映像を削除し、その後の番組ではより適切かつ効果的に多様性の問題を取り上げた。
政府高官は、民族集団への嫌がらせが差別を助長するとして公に拒絶し、国内のあらゆる人の個人の権利を保護することを再確認した。
先住民
法律は、アイヌを先住民族として認め、アイヌ差別と権利侵害を禁止し、アイヌの文化を保護し促進する。法律は、国および地方自治体に対して、地域を支援し、地域経済と観光業を振興する対策を講じることを義務付けている。法律は、アイヌの自決権や民族に関する他の権利を規定しておらず、またアイヌの教育権を明記していない。
アイヌは引き続き貧困と教育の障害に直面した。明治時代に廃止された伝統的な慣習や権利の回復を求め、アイヌのグループは8月、河川での商業的なサケ漁の禁止免除を求め訴訟を起こした。この訴訟は、アイヌの人々が先住民族の権利について訴えた初めてのケースとなった。しかし国は、明治時代の同化政策でアイヌの村が消滅したため、土地やサケ漁の権利を持つ部族は存在しないと主張した。
日本政府は琉球民(沖縄と鹿児島県の一部の住民を指す言葉)を先住民族と認定していないが、彼らの独自の文化と歴史を公式に認め、その伝統を保存し尊重する努力をした。
性的指向および性同一性に基づく暴力行為、犯罪化、その他の虐待
法律はトランスジェンダーの人々に対して、性同一性を法的に認定するため、生殖機能を持たないことを義務付けており、事実上ほとんどの人に対して不妊手術を義務付けている。トランスジェンダーの人々はまた、精神鑑定を受け、国際疾病分類で認められていない疾病である「性同一性障害」の診断、未婚かつ20歳以上であること、20歳未満の子どもがいないことなどの追加条件も満たさなければならない。
性的指向または性同一性に基づく差別を禁止する法律はなく、そのような差別に対する罰則は存在しない。レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、インターセックス(LGBTI)の人々の権利を擁護する団体から、差別、アウティング、いじめ、嫌がらせ、および暴力行為の報告があった。96の人権およびLGBTI団体は4月、署名書簡を首相に送付し、自民党に対して性的指向や性同一性に基づく差別を防止する法律を導入するよう求めた。
同級生にゲイであることを公表された後、2015年に校舎から転落した学生の両親は、一橋大学に損害賠償を求めた民事訴訟を東京地裁が2019年に棄却したことを不服として控訴した。11月時点で、この訴訟は控訴審で係争中だった。
4月、国立大学の女子大2校、東京都のお茶の水女子大学と奈良県の奈良女子大学は、トランスジェンダーの学生の受け入れを始めた。
政府の調査によると、性的少数者の権利保護を目的とした方針を持つ企業は、わずか10%強に過ぎない。LGBTIの権利擁護団体は、性同一性や性的指向に基づく差別を禁止する条例を導入し、同性パートナーシップを認める自治体が増えていることを歓迎した。法務省は2019年に、性的指向や性同一性に基づく潜在的な人権侵害についての問い合わせを数件受け、問い合わせた者に法的助言を行った。
LGBTIの人々を取り巻く偏見が、依然として、差別や虐待を自ら報告する妨げになっていた。
LGBTIであることを公表している国会議員は2名おり、いずれも野党である立憲民主党に所属している。
HIV・エイズ感染者に対する社会的不名誉
HIV・エイズ感染者に対する差別を禁止する法律はない。拘束力のない厚生労働省のガイドラインには、事業者にはHIV感染を理由に人を解雇あるいは不採用にしてはならないと明記されている。裁判所は、HIV感染が理由で解雇された個人に損害賠償請求を認めてきた。
HIV・エイズ感染者に対する差別についての懸念、この疾患に伴う不名誉、および解雇の恐れが、多くの人にHIV・エイズの感染を公表させなかった。
その他社会的暴力や差別
警察は高齢者を虐待した個人を相次いで逮捕した。厚生労働省は、高齢者への肉体的、精神的および性的虐待と、家族や介護施設職員による介護放棄の割合が増加していると報告した。
第7部 労働者の権利
a. 結社の自由と団体交渉権
法律は、民間部門の労働者が事前認可あるいは過度の要件なしに、組合を結成し、自分が選んだ組合に所属する権利を規定し、ストライキおよび団体交渉を行う権利を保護している。
公共部門の職員および公共企業体の従業員には、法律により、組合を結成し、自分が選んだ組合に所属する権利が制限されている。公共部門の職員は、公共部門職員の組合に参加することが許されており、こうした団体が公共部門の雇用者と賃金、労働時間、その他の雇用条件について一括して交渉することができる。国際労働機関(ILO)は、4月1日に施行された改正地方公務員法が、一部の公務員の労働権をさらに制限する可能性があるとの懸念を表明した。公共部門の職員にはストライキをする権利がない。公共部門でストライキを扇動する労働組合の指導者は免職され、罰金または懲役に処せられる場合がある。消防職員および刑事施設職員には団結権と団体交渉権が認められていない。
発電および送電、運輸および鉄道、通信、医療および公衆衛生、郵便などの必要不可欠なサービスを提供する部門の労働者は、ストライキを実施する日の10日前までに当局に通知しなければならない。必要不可欠なサービスの提供に関わる従業員には団体交渉権がない。
法律は組合に対する差別を禁止し、合法的な組合活動のために解雇された労働者の職場への復帰を規定している。
日本政府は結社の自由、団体交渉権、および合法的なストライキについて規定する法律を効果的に執行した。政府の取り締まりと罰則は、公民権の否定に関わる他の法律と同等だった。団体交渉権は民間部門で一般的であった。
権利違反があった場合には、労働者または労働組合は労働委員会に異議を申し立てることができ、労働委員会は雇用者に措置を講じるよう義務付ける救済命令を発することができる。雇用者が措置を講じなければ、その後で原告はその問題について民事訴訟を起こすことができる。裁判所が救済命令を支持し、救済命令違反を認定した場合、罰金、禁固、またはその両方の罰則に処すことができる。
短期雇用契約の増加は、正規雇用を損ない、団体活動を妨げた。
b. 強制労働の禁止
法律によりあらゆる形態の強制労働は禁止されている。しかし、この法律では、何が強制労働にあたるのか明確に定義されていないため、このようなケースを追求する際は、検察官の裁量に委ねられる。
しかし全般的には、政府は法律を効果的に執行した。だが一部の業種、特に外国人労働者が一般的に雇用されている業種では施行が不十分だった。強制労働に対する法律上の刑罰は、強制労働の形態、被害者、このような犯罪を訴追に適用した法律により異なった。中には、他の類似した重大犯罪に対する法律と比較して見合わないものもあった。例えば、法律は強制労働を犯罪とし10年以下の懲役を規定するが、収監に代わる少額の罰金刑も認めている。NGOは、複数で重複する法令に依拠することが、特に心理的抑圧の側面がある強制労働に関わる人身売買の犯罪について、政府による特定と訴追を阻害していると主張した。
製造業、建設業および造船業において強制労働の兆候が引き続きあった。これは主に、技能実習制度(TITP)を通じて外国人を雇用している中小企業にみられた。TITPは、外国人労働者が日本に入国し、事実上の臨時労働者事業のような形で最長5年間の就業を認める制度であり、この分野の多くの専門家は人身取引およびその他の労働者虐待の温床になりやすいと評価した。
TITPで働く労働者は、政府が禁止しているにもかかわらず、移動の自由およびTITP関係者以外の人物との連絡の制限、賃金の未払い、長時間労働、母国の仲介業者に対する多額の借金、ならびに身分証明書の取り上げを経験した。例えば、報告によると、技能実習生の中には、仕事を得るため自国で最高100万円(9200ドル)を支払った者もいた。また、実習を切り上げようとした場合に、このような資金が自国の仲介業者に没収されることが義務付けられていた契約の下で雇用されていた技能実習生もいた。こうした行為はいずれも、TITPの下で違法である。また、労働者は実習の切り上げや強制送還により没収される「強制貯金」の対象となることもあった。
外国人技能実習機構は、技能実習生の職場を立入検査するなど、TITPを監督する。同機構は、検査官などの増員した人員を維持したが、機構は人員不足で、日本語を話せない人たちとの接触が不十分であり、労働権の侵害を特定するには効果的ではなかったという懸念を労働者団体は引き続き挙げた。
COVID-19の大流行による経済不況で失業したTITPの労働者を支援するため、政府は他の雇用者による雇用を見つけることや指定職種の変更を認めた。
国務省の「人身取引報告書」も参照。
c. 児童労働の禁止と雇用の最低年齢制限
法律は、最悪の形態の児童労働全てを禁止している。15歳から18歳未満の年少者は、重量物の取り扱いや、運転中の機械の掃除、検査または修繕など、危険な、あるいは有害と指定される仕事でなければ、いかなる仕事にも従事することができる。また年少者の深夜業は禁止されている。13歳から15歳までの児童は「軽易な労働」であれば従事でき、13歳未満の児童でも芸能界であれば働くことができる。
政府はこれらの法律を効果的に執行した。児童労働に関する違法行為に対する罰則には罰金と懲役があり、他の類似した重大犯罪に対する罰則と同等だった。
子どもは、商業的性的搾取の対象となった(第6部 子どもを参照)。
d. 雇用および職業に関する差別
法律は雇用および職業に関し、差別を禁止しているが、雇用および職業に関し、宗教、性的指向または性同一性、HIVの感染、あるいは言語に基づく差別を明確に禁止していない。
法律は、募集、昇進、研修や契約更新など、ある特定の状況での性差別を禁止している。法律は、強制的な服装規定(ドレスコード)には対処していない。法律は、女性の雇用にいくつかの制限を課している。法律は、女性が地下坑内での特定の作業や、非常に重いものを持ち上げる作業、PCBなど26種類の特定有害物質を散布する作業を行うことを制限している。また、妊娠中の女性や過去1年以内に出産した女性には別の制限が適用される。
3月、日本航空は、女性にハイヒールとスカートの着用を義務付けるドレスコードを緩和し、女性が「自分に最も合った」履物を選び、ズボンを着用できるようにすると発表した。日本航空は、国民の抗議運動に対応しドレスコードを緩和した初の大手企業となった。
政府は、COVID-19に関連した学校休業で仕事ができない場合、下請けのフリーランス労働者に1日4100円(38ドル)を支給する制度を設けた。政府は、ホステスや性産業従事者を支給の対象外とし、これらの労働者を擁護する団体からは批判を受けた。性産業では、経済的に苦しい女性が働いていることが多く、そのような女性は社会的に最も弱い立場にあると擁護団体は指摘した。政府は、過去に犯罪組織との関係が指摘されるなど、法的に問題がある可能性のある企業に補助金を支給した事例を懸念したが、擁護団体は、そのような懸念は労働者やその子どもではなく、オーナーや経営者に関わることだと主張した。
法律は、男女同一賃金を義務付けている。しかし国際労働機関は、「同一労働同一賃金」という概念が取り入れられていないため、法律はあまりにも限定的であると評価した。女性の2019年の平均月給は、男性の約74%にとどまった。男女雇用機会均等法には、全ての労働者の募集、採用、昇進、職種の変更に関して、たとえ差別する意図がなくても、差別的な効果のある(法律で「間接差別」と呼ばれる)方針や行為の禁止が含まれている。女性は依然として、セクシュアルハラスメントやマタニティハラスメントなど、職場での不平等な待遇について懸念を表明した。法律は、セクシュアルハラスメントを犯罪としないが、セクシュアルハラスメントの防止を怠った企業を特定する措置を含んでいる。
女性活躍推進法は、国および地方公共団体、ならびに301人以上の従業員を雇用する民間企業に、それぞれの組織における女性の雇用状況の分析と、女性の参画と活躍を推進する行動計画の提出を義務付けている。2019年にこの法律が改正され、2020年4月から大企業の情報公表項目が増え、2022年4月には、101人以上の従業員を雇用する中小企業にも報告義務が拡大される。
公務員からのパワーハラスメントに関する相談が過去最多となったことを受け、国会では2019年、一連の労働法改正案が成立し、企業に職場でのパワーハラスメントの予防措置を講じ、セクシュアルハラスメントの防止に向けた要件の追加を企業に義務付けた。パワーハラスメントに関する改正は2020年6月に施行され、2022年3月末までには大企業に義務化され、中小企業には「努力義務」が生じる。2022年4月からは中小企業への義務化が予定されている。セクシュアルハラスメントを防止する追加措置に関する改正は、規模を問わず全ての企業を対象に2020年6月から施行された。
報道機関は引き続き、就職活動中の学生に対するセクシュアルハラスメントの横行を報じた。政府は企業に対し、職場でのセクシュアルハラスメントの防止を求めているが、就職活動中の学生にこの規制は適用されない。そのため、学生に注意を促す大学や、学生の就職希望者を面接する従業員の行動規範を改定する企業もあった。日本労働組合総連合会が2019年5月に実施した調査によると、求職者の10.5%が「セクシュアルハラスメントを経験した」と回答した。6月には改正法が施行され、企業にカウンセリングの実施や職場でのハラスメントに関する一般的な研修、ハラスメントに関する苦情の調査などを義務付けた。大手企業110社を対象とした調査によると、67%が学生応募者の保護対策をすでに実施、13%が保護対策を予定している、13%が実施する予定はないと回答した。取り組みの中には、1対1のミーティングは会社の施設内で行うことの義務付け、ミーティングでの飲酒の禁止、同性同士のミーティングの義務付けなどが含まれる。東京都はこの年から、求職者がソーシャルメディアを利用してセクシュアルハラスメントを報告できるようにした。
有期雇用の労働者、いわゆる「非正規雇用」の労働者は、同じ仕事をしている正規雇用の労働者に比べ、賃金や福利厚生、雇用の安定性の面で劣っていた。法改正により、業務内容が同一で、予想される職務内容と配置の変更範囲が同一である場合は、正規および非正規雇用労働者を同等に処遇するよう雇用者に義務付け、「不合理な」待遇差を禁止する規定が盛り込まれた。正規・非正規雇用労働者の同一労働同一賃金に関する労働法改正は、大企業では4月に施行され、中小企業では2021年4月に施行が予定されている。
政府における障害者の合法的な採用を増やすため、2019年から法律は、求職者が障害者であることを示す障害者手帳の確認を義務付けている。厚生労働省は、2019年におよそ40%の政府機関が障害者雇用目標に到達しなかったことを示す統計を発表した。法律は、政府および民間企業に対し、障害者(精神障害者を含む)を法定雇用率以上雇用するよう義務付けている。法律は、国および地方公共団体に対して法定雇用率2.5%、民間企業に対して2.2%を義務付ける。法律により、従業員100人超の企業が障害者を法定雇用率以上雇用しなかった場合には、法定雇用数に足りない障害者1人当たりの少額の罰金を毎月支払わなければならない。障害者の権利擁護団体は、障害者を雇用するより義務付けられた罰金の支払いを選択する企業もあると主張した。
政府機関による障害者の雇用が法定雇用率に満たない場合の罰則はない。
男女雇用機会均等法違反が疑われる場合、厚生労働省はその問題について雇用者に報告を求めることができ、また助言、指導、是正勧告を行うことができる。雇用者が報告を怠る、あるいは虚偽の報告をした場合は、罰金を科すことができる。雇用者が厚生労働省の勧告に従わない場合、企業名を一般に公表する場合もある。都道府県の労働局雇用均等室の政府ホットラインは、セクシュアルハラスメントに関する相談に対処し、可能な場合は紛争を調停した。
e. 許容される労働条件
法律は都道府県ごとに異なるが、全てのケースで公式貧困線を上回る収入を提供するよう最低賃金を定めている。政府は最低賃金を効果的に執行した。
法律により、ほとんどの産業で労働時間は週40時間と規定されており、例外もあるが、一定の期間に認められる時間外労働の時間数は制限されている。
大企業に時間外労働の上限を課す法律は、4月に中小企業にも適用が拡大された。労働組合は、依然として、政府が労働時間制限の執行を怠っていると批判し、政府職員を含め労働者は日常的に、法律で定められた労働時間を超えて働いた。
日本政府は労働安全衛生基準を定めている。労働者は、自らの雇用を危険にさらすことなく、健康や安全を脅かす状況から離れることができる。
厚生労働省が、ほとんどの業種の賃金、労働時間および労働安全・衛生基準に関する法律・規則の執行について責任を負う。国家公務員の労働安全衛生については人事院が所掌する。鉱業については経済産業省が、海運業については国土交通省が労働安全・衛生をそれぞれ所掌する。
政府は、労働安全衛生基準法を効果的に執行し、同法違反に対する罰則は同種の犯罪に対する罰則と同等だった。労働基準監督官は、重大な違反の場合には、安全でない操業を直ちに停止させる権限を有するが、重大でない場合は、拘束力のない指導を与えることができる。労働基準監督官は、抜き打ち検査を行い、制裁措置を講じる権限を持つ。政府の職員は、430万カ所以上の事業所を監督するには資源が不十分であったことと、違反を防止する労働基準監督官の数は十分ではなかったことを認めた。
危険な装置や不十分な研修に起因するけが、賃金や残業手当の未払い、過度の、時として誤った賃金控除、強制送還、および標準以下の生活環境など、TITPにおける労働安全・衛生基準違反の報告がよくみられた(第7部b. 参照)。
2019年、死亡や4日以上の労働者の欠勤を必要とする主な労働災害が12万5611件発生した(死者845人)。労働災害による死亡の原因として最も多かったのは、墜落・転落、交通事故および重機によるけがであった。また厚生労働省は引き続き、過労死による被害者を正式に認定した。被害者の元雇用者と政府は条件が合致した場合、家族に対して賠償金を支払った。