Flag

An official website of the United States government

Human Rights
2021年国別人権報告書―日本に関する部分
11 MINUTE READ
5月 17, 2022

*下記の日本語文書は参考のための仮翻訳で、正文は英文です。

米国国務省民主主義・人権・労働局
2022年4月12日

エグゼクティブ・サマリー

日本は、議院内閣制を採用する立憲君主制国家である。11月10日、自由民主党の新総裁・岸田文雄氏が首相に確定した。10月に実施された衆議院議員選挙は、外国の専門家から自由かつ公正とみなされ、自由民主党と連立政権を組む公明党が絶対多数を確保し勝利した。国内の弁護士が1票の格差を違憲として、全選挙区で衆議院選挙の結果無効を求める訴訟を起こした(「第3部 選挙および政治への参画」を参照)。

国務大臣がその長を務める政府機関である国家公安委員会が警察庁を管理し、都道府県公安委員会が都道府県警察を管理する。文民当局は治安部隊に対する実効的な統制を維持した。治安部隊のメンバーによる虐待があったとの信頼できる報告があった。

重大な人権問題の中には、リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する権利)へのアクセスに対する大きな障壁と、障害者、国籍・人種・民族的マイノリティーグループのメンバー、または先住民を対象とした暴力や暴力の脅しを伴う犯罪の信頼に足る報告があった。一部の法律や慣行が悪用されれば、報道の自由を侵害しかねないという懸念があった。人権に対する懸念としては、誹謗中傷に関する刑法があったが、政府がこの法律を悪用して公の場の議論を制限した証拠はなかった。

政府には、人権侵害や汚職を行った可能性のある政府職員を特定し、処罰する仕組みが整備されていた。この1年間、そのような行為に関する既知の報告はなかった。

第1部 個人の人格の尊重

A. 恣意的な人命のはく奪およびその他違法な、または政治的動機に基づく殺人

政府またはその職員による、恣意的、または違法な人命のはく奪は報告されなかった。

B. 失跡

政府当局による、あるいは政府当局の意向を受けた失跡の報告はなかった。

C. 拷問およびその他の残酷、非人道的、または屈辱を与えるような処遇または処罰

法律はこのような行為を禁止しており、政府職員がこうした行為を行ったという報告はなかった。

日本政府は依然として、死刑囚に対し、死刑が執行される日まで執行日に関する情報を事前に提供せず、死刑囚の親族に対しては、死刑執行後、その事実を告知した。政府は、この方針は受刑者に自分の死期を知る苦しみを与えないものであると考えた。

また当局は法により、死刑囚を死刑執行まで単独室に収容するが、親族、弁護士、およびそれ以外の人々による面会を認めている。このような単独室での収容期間は事例によって異なり、数年間にわたる場合もある。

刑事免責は治安部隊の中で重大な問題ではなかった。

刑務所および収容施設の状況

刑務所の状況は、全般的に国際基準に合致したものであったが、医療や精神衛生に関する体制が不十分で、冬季の暖房または夏季の冷房に不備のある施設も依然としてあった。東京地区の受刑者は、長期間寒さにさらされた結果、手足の指がさまざまな症状の重度のしもやけになった。厳格に配給される食事はしばしば不十分とされ、独立した専門家によると、著しい体重減少につながった。刑務所や収容施設では、受刑者や被収容者を監房に長期間単独で収容することが日常的に行われた。一般に懲罰的に行われるわけではないが、結果的に事実上の独房監禁となった。受刑者は1日最長24時間を監房の中で過ごすことが日常茶飯事で、運動する時間は一貫して認められていない。

入国者収容施設への長期にわたる外国人の収容は引き続き懸念とされた。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を受け、法務省は多くの被収容者に仮放免を認め、2020年4月に1000人を超えていた入管施設の被収容数は、6月2日現在346人にまで減少した。346人のうち、約60%は6カ月を超えて収容され、中には8年間も収容されている者もいた。この収容慣行が、被収容者の間でハンガーストライキなどの抗議が増える原因となった。中には女性を含む被収容者を力ずくで管理し、被収容者のプライバシーを保護しなかった収容施設もあった。

有罪判決を受けた受刑者は、一般に電話を使うことができなかった。

物理的な状況:当局は、女性を男性とは別に収容し、刑務所やその他矯正施設および入国者収容施設では、20歳未満の未成年者を成人とは別に収容した。

2019年4月から2020年3月まで、刑務所と入国者収容施設の第三者視察委員会は、重要な懸念として不十分な医療措置を文書に記録した。視察委員会はまた、刑務官に対する追加的な人権教育、COVID-19の予防措置の強化、冷暖房システムの改善を求めた。法務省によると、2020年の矯正医官の数は292人で、必要とされる定員の約90%だった。

出入国在留管理庁の報告によると、3月6日、不法残留で半年以上名古屋の入管施設に収容されていたラトナヤケ・リャナゲ・ウィシュマ・サンダマリさん(33歳)が、病院で病名不明の病気で死亡した。ウィシュマさんは1月から胃痛などの症状を訴え、病院での治療を求めて仮放免の申請を続けていた。2月下旬には施設外の病院での検査を希望したが、その要望は管理職に伝えられることなく、実現しなかった。その代わり、入管施設は3月4日に病院の精神科で検査を行った。名古屋の入管施設には、週2回、1回2時間の勤務をする非常勤医師が一人いるだけだった。ウィシュマさんが亡くなった土曜日は、医療関係者はいなかった。出入国在留管理庁は、同施設の緊急通報が遅れたのは、医療専門家への相談がなかったためとしている。8月10日、出入国在留管理庁は20人から成る改革推進チームを発足させ、ウィシュマさんの収容を監督した4人の職員に口頭で注意を与えた。非政府組織(NGO)の恣意的拘禁ネットワーク、ヒューマンライツ・ナウ、外国人人権法連絡会は、死因の調査や予防措置の勧告が不十分だとして、報告書に抗議する声明を発表した。また、医療資源の不足、コミュニケーション不全、施設職員による被収容者の訴えの無視、被収容者の権利の適切な監督の欠如などの懸念も表明した。

管理:ほとんどの当局は受刑者と被収容者が司法当局に苦情を申し出、申し立てがあった問題の調査を要求することを認めていた。しかし、法律の専門家や人権NGOは、当局が入国者収容施設で苦情処理プロセスを管理していたことに引き続き懸念を提起した。例えば、不服申立人は収容施設職員に苦情を報告することが義務付けられていた。当局は、最終結論以外の詳細がほとんど書かれていない回答を受刑者と入国者収容施設被収容者に送っただけであった。

独立した監督:政府は全般的に、選挙で選ばれた公職者、NGO、報道関係者および国際機関による予定されている視察を許可した。

法律により、法務省は政府が運営する刑務所および入国者収容施設の視察委員会の構成員を中央政府以外から任命した。当局は、医師、弁護士、地方自治体職員、地域住民、専門家で構成される委員会が、刑務官や入国者収容施設職員の立ち会いなく被収容者と面接することを認めた。刑務所と入国者収容施設は、委員会が提出した勧告におおむね従うか、それを真摯(しんし)に検討した。

しかし、法律の専門家や人権NGOからは、視察のプロセスや委員会の構成について懸念が示された。警察の留置施設を視察する委員会のメンバーは、警察以外からではあるが、警察の監督官庁や都道府県の公安委員会が任命した。また、視察委員会のメンバーを選ぶ際に当局は、NGOの勧告を一部受け入れた。また、法律の専門家や人権NGOは、非公開の選考基準やメンバー自体が、選ばれたメンバーが適切な資格を持っているかを評価する非政府専門家の能力を阻害しているという懸念を引き続き表明した。また、入国者収容施設では、視察委員会の現地視察の日程調整や、視察委員会による被収容者への聞き取り時間の決定も、入国者収容施設職員が行った。

NGOおよび国連拷問禁止委員会はまた、視察手続きに引き続き懸念を提起した。例えば、施設当局への面接の事前通知提出が義務付けられていることを懸念として挙げた。さらに、委員会の構成員の選定に透明性が欠けていることに懸念を提起した。

D. 恣意的逮捕または留置・勾留

法律により恣意的逮捕や留置・勾留は禁止されている。罪を犯したか、犯そうとしていると警察官が信じる、あるいは犯罪に関する情報を保持していると疑われる人物に対して、警察官は呼び止め、職務質問をすることができる。市民社会団体は、警察が外国人に対する民族的プロファイリングおよび監視を止めるよう引き続き要請した。

逮捕手続きと被拘禁者の処遇

当局は、正当な権限を持つ当局者が証拠に基づいて発付した令状により公に個人を逮捕し、被拘禁者を独立した司法制度の下で裁いた。被疑者が死刑に当たる罪など特定の罪を犯したと疑うに十分な根拠がある緊急的な事件の場合、法律は事前に令状を取ることなく被疑者の逮捕を認めているが、警察に対して逮捕後速やかに令状を取ることを義務付けている。

法律により、被疑者、その親族、または代理人は、裁判所に対して、起訴された被勾留者の保釈を請求することができる。起訴前の保釈は認められていない。NGOと法律の専門家は、自白なしに保釈が認められるのは非常に困難だと述べた。当局は自白しない被勾留者に対して弁護人との接見を制限する傾向にあった。その他の逮捕要素および公判前の勾留慣行(後述を参照)も自白を促す傾向にあった。検察庁は、2020年に警察が送検した全犯罪被疑者のうち約67%は起訴されなかったと報告した。検察官は残りの約33%を起訴し、そのほとんど全てが有罪となった。このような事例のほとんどで、被疑者は自白した。

起訴前に勾留されている被疑者は、取り調べを受けることが法的に義務付けられている。警察の指針により、取り調べ時間は1日最長8時間に制限され、夜通しの取り調べは禁止されている。起訴前の被勾留者は、必要であれば、国選弁護人との少なくとも1回の接見を含め、弁護人と接見することができる。しかし、取り調べ中に弁護人が同席する法的な権利は認められていない。

法律により、被疑者が逃亡する、あるいは証拠を隠匿または隠滅すると疑うに足る相当な理由がある場合、警察は被疑者が弁護人および領事(被勾留者が外国人の場合)以外の人物と面会することを禁止できる(後述の「公判前の勾留」を参照)。薬物犯罪の容疑をかけられている被疑者の大半を含む多くの被疑者は、起訴前までこの制約を受けたが、収容施設職員立ち会いのもと、親族からの面会を許可された者もいた。犯罪の種類と、当局が親族やその他の者による被疑者への面会を拒否できる期間との間には法律上の関連性はない。しかし、組織犯罪あるいはその他犯罪の容疑をかけられ勾留されている者については、検察官が親族やその他の者との接触が取り調べの妨げになると考えたため、面会を拒否する傾向があった。

殺人、強制性交等致死傷、放火、身代金目的の誘拐など凶悪犯罪の事件において、警察官および検察官による取り調べの全過程の録音録画が義務付けられた。このような事件において、逮捕された被疑者が取り調べ中に警察官および検察官に提出した供述調書は、録音録画がない場合、原則として証拠として認められなくなった。法律の専門家によると、これは自白の強要や冤罪を防ぐことを目的としていた。警察はまた、精神に障害のある被疑者が逮捕された場合、その取り調べ過程を録音録画するよう最大限努めなければならない。日本弁護士連合会は、2018年に録音録画の対象となった刑事事件は、国内の刑事事件の2%だったと指摘し、録音録画を逮捕前の被疑者の取り調べや全ての刑事事件に拡大するよう提唱した。よって法律の専門家は、特にホワイトカラー犯罪に関連する事件での自白の強要に引き続き懸念を表明した。

恣意的な逮捕:外国人が警察に止められ、人種差別の疑いのある検査を受けたという信頼できる報告があり、拘束され、尋問され、捜索された人たちがいた。また、薬物を所持しているとして、根拠なしに黒人が告発されるケースが複数あった。中には、通行人の目につく公共の場で、靴やベルト、衣服を脱ぐよう要求された人たちもいた。

6月、イスラム教徒の女性から、日本人男性が自分と3歳の娘に暴言を吐くのを警察官が黙過したとの報告があった。男性は、この3歳の娘が男性の息子を蹴ったと主張したが、母親はそれを否定した。この女性によると、彼女と娘は90分間引き留められた後、警察署に連行され、狭い部屋で5人の警官から3時間にわたって尋問され、その後さらなる尋問のため離れ離れにされた。母親によると、警察は彼女の名前、住所、電話番号を、彼女の許可なく男性に教えたという。男性はその後、「殺人未遂犯」という見出しを付け、女性と娘の写真をソーシャルメディアに投稿した。

公判前の勾留:法律では、勾留は、ある人物が罪を犯したことを疑うに足る相当の理由があり、かつ証拠の隠匿もしくは隠滅、または逃亡のおそれがある場合に限られるが、当局は日常的に逮捕から起訴前の最初の72時間まで、警察が運営する留置施設に被疑者の身柄を拘束した。裁判官は逮捕から72時間が経過する時点で被疑者を面接した後、起訴前の勾留期間を10日間ずつ、最長20日間まで延長できる。検察官はこの延長を日常的に請求し、その許可を得た。暴動、外国からの侵略、暴力的な集会などの例外的な事案の場合、検察官はさらに5日間の延長を請求できる。

NGOと法律の専門家は、起訴前に被疑者を代用監獄に勾留する慣行が継続して行われていたと報告した。裁判官が慣例的に検察官の勾留延長請求を認めたがゆえ、外国人を含むほとんどの被疑者の起訴前の勾留は通常23日間続いた。さらに、23日間の勾留期間は、1件の容疑ごとに適用されるので、複数の容疑に直面する被疑者は、長期にわたり勾留されることがある。NGOおよびこの分野の外国の専門家は、代用監獄の被勾留者は、弁護人以外の者との接見は日常的に許されず、被疑者はこの間ずっと、弁護士の立ち合いなしに長時間の取り調べを受けることになったと引き続き報告した。

E. 公正な公開裁判の拒否

法律により、独立した司法制度が規定されており、日本政府は、全般的に司法の独立性と公正性を尊重した。

審理手続き

法律により、公正で、公開された裁判を受ける権利が与えられており、独立した司法制度により、全般的にこの権利は行使された。被告は、法律上有罪と証明されるまで推定無罪とみなされるが、NGOおよび法律家は、裁判前に被疑者に自白を迫る圧力があることから、そうではないと引き続き示唆した。期限付きの在留資格で日本に滞在している外国人被疑者は、在留資格期限が裁判のためには延長されないことから、その有効期限が切れる前に事件を終局させるため、執行猶予付きの判決を交換条件に自白することが多かった。裁判が結審してから判決が下されるまでの時間は、特に複雑な事件の場合、裁判官が証拠を再吟味するために非常に長くなることがある。

被告は自らにかけられた容疑について速やかに、詳細な情報を知らされる権利がある。起訴された個人はそれぞれ、遅滞なく裁判を受ける権利(ただし、専門家は、精神疾患を患う被勾留者の裁判は無期限に延期される可能性があることを指摘した)、貧困にある場合に提供される国選弁護人を含めた弁護人を得る権利、ならびに反対尋問の権利が与えられている。重大な刑事事件に関しては裁判員制度が置かれている。被告人は自身の裁判に出席する権利があり、自己に不利益な供述を強要されない。刑事事件の被告が外国人である場合は、当局が無償の通訳サービスを提供した。民事事件で被告となった外国人は、通訳費用を負担しなければならないが、裁判官は裁判所の判決を踏まえ、その費用の支払いを原告に命じることができる。

被告は弁護の準備、証拠の提示、および上訴のため、自らの弁護人を選任する権利を与えられている。裁判所は弁護士会を通じて、被告による弁護人の選任を支援することができる。弁護人費用を負担できない場合、被告は国選弁護人を要求できる。

審理手続きは検察側に有利となっていた。この分野の専門家は、弁護人が依頼人との面会時の電子的な録音・録画機器の使用を禁止されていることで、相談・助言の有用性が損なわれていると述べた。また法律では、被告側の弁護人が開示手続きに関する厳しい条件を満たす場合を除いて、検察官による資料の全面開示を義務付けていないため、被告側に有利な資料の隠蔽につながる可能性がある。

日本弁護士連合会は、刑事被告人が法廷に出入りする際、表向きには逃亡を防ぐために行われている手錠や腰のロープで拘束する慣行を、推定無罪の考えが損なわれる恐れがあるため止めるよう訴えた。手錠とロープは、公判中は取り外される。

NGOは、再審の申し立て中であっても、死刑執行は保留されないため、死刑囚の再審手続きについて懸念を表明した。日本弁護士連合会は、刑執行の正当性を疑問だと主張している。

政治囚と政治的被拘禁者

政治囚または政治的被拘禁者が存在するとの報告はなかった。

民事司法手続きと救済

民事事件に関しては、独立した公正な司法制度がある。不正行為の申し立てに対しては、行政による救済措置と司法による救済措置の両方がある。個人は、人権侵害に対する損害賠償、あるいは人権侵害の中止を求める訴訟を国内の裁判所に起こすことができる。

F. プライバシー、家族、家庭、または信書に対する恣意的または違法な干渉

法律により上記のような行動は禁止されており、日本政府がこれらの禁止行為の規定の順守を怠ったという報告はなかった。

第2部 市民の自由の尊重

A. 報道や他のメディア関係者を含む表現の自由

憲法は、報道や他のメディア関係者に対しても同様に、言論と表現の自由を規定し、日本政府はおおむねこうした自由を尊重した。独立したメディア、効力のある司法制度および機能する民主的政治制度が合わさり、表現の自由を維持した。

表現の自由:政府の相談窓口を設置し啓発活動を推進することで、日本以外の出身者に対するヘイトスピーチの排除を目的とするヘイトスピーチ対策法がある。しかし法律は、言論の自由を阻害しないため、ヘイトスピーチを処罰せず禁止もしていない。法律や市民社会の専門家は、法律とそれに続く自治体の条例が2016年に施行されてから、街頭デモにおけるヘイトスピーチの数が引き続き減少していると認めた。その一方で、プロパガンダやオンライン上でのヘイトスピーチは増加し、専門家によると、特定の民族を対象とした犯罪が依然としてあり、政府に対して、より効果的な抑止策の導入とヘイトスピーチ事案の調査を求めた。大阪府大阪市、東京都世田谷区、国立市、狛江市、宮崎県木城町、神戸市、川崎市の7自治体が、ヘイトスピーチ防止条例を制定している。川崎市は、刑事罰として罰金を科す条例を持つ、最初で唯一の自治体である。

オンラインメディアを含む出版および報道関係者の表現の自由:独立性のある報道機関は、活発に活動し制限を受けることなく幅広い意見を表現した。この件に関する立件はなかったが、法律により政府は特定秘密に指定された政府情報を出版もしくは公表した者を告発することができる。有罪判決を受けた者は、最長5年の懲役かつかなりの額の罰金が科せられる。

検閲または内容の制限:国内および国際的な専門家は、政府機関に属する「記者」クラブ制度が自己検閲を助長している可能性について引き続き懸念を表明した。こうした記者クラブは、政府省庁などさまざまな組織内に設置されており、フリーランスおよび外国人の記者を含む、記者クラブ非加盟者による省庁などの組織に対する取材を妨げる可能性もある。

名誉毀損・中傷法:名誉毀損は刑事上ならびに民事上の違法行為にあたる。法律は、発言の真実性を抗弁として認めていない。政府がこれらの法律を乱用し、公的議論を制限した証拠はなかった。

インターネットの自由

政府はインターネットへのアクセス制限や介入、またはオンライン上のコンテンツの検閲をしなかった。また政府が適切な法的権限なしで、個人的なオンライン通信を監視したとの信じるに足る報告もなかった。法務省はインターネットを介した人権侵害件数は、2019年から2020年にかけて14.7パーセント減少したと報告した。

学問の自由と文化的行事

政府が学問の自由や文化的行事を制限したという事案報告はなかった。

歴史教科書の認定は、長い間論争の的となってきた。3月、文部科学省は新しい高校の教科書の審査結果を発表した。教科書の検定は、国の新しい指針を受けて更新されたガイドラインを使用して行われた。更新されたガイドラインには、教科書は問題に対する政府の公式見解に沿ったものであるべきという原則が含まれる。

B. 平和的な集会および結社の自由

憲法により集会と結社の自由が規定されており、日本政府は、全般的にこれらの権利を尊重した。

C. 信仰の自由

国務省の「信仰の自由に関する国際報告書」を参照。

D. 移動の自由と出国する権利

法律により、国内の移動、外国旅行、移住、本国帰還の自由が規定されており、COVID-19対策として実施した日本への入国に関する渡航制限および国内の移動制限を除いて、日本政府は全般的にこれらの権利を尊重した。

外国旅行:政府のCOVID-19対策において、ほぼ全ての外国人の入国を制限した。居住者の再入国は、14日間の政府施設での待機と移動制限の対象となった。日本国民は出国や海外渡航の制限の対象とならなかったが、再入国の制限を受けた。

E. 国内避難民(IDPs)の状況と処遇

該当なし。

F. 難民の保護

日本政府は、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)およびその他の人道支援組織と協力して、難民、庇護希望者、無国籍者、およびその他の関係者に保護と援助を行った。3月、出入国在留管理庁とUNHCRは、政府の難民認定制度の質を向上させるための協力覚書に調印した。9月現在、この覚書に基づく活動は最終的に決定されていなかった。

庇護へのアクセス:法律は、庇護の付与あるいは難民の認定を規定している。しかし日本の難民認定審査手続きは厳格で、政府は2020年、初回申請3936人のうち、10年ぶりの高水準となった47人の申請を認めた。NGOとUNHCRは、低い認定率に懸念を表明した。

法律の専門家グループを含むNGOは、申請者に難民申請を思いとどまらせ、申請を自ら取り下げ国外退去命令を受け入れるよう誘導する厳しい審査手続に懸念を表明し、特に政府が難民の主張を裁定する際に使う「迫害の恐れ」の解釈は非常に厳しいもので、申請者に直接的な危険があるという絶対的な確実性を求めていると主張した。UNHCRには、法務省が難民認定基準をどのように適用しているかを評価するための、政府の難民申請審査へのアクセスはなかった。市民社会グループは、庇護希望者が難民認定を受けるのに平均4年を要し、異議申し立てに係る事案の中には10年かかっているものもあると報告した。

入管当局は難民認定の第1回目の審問を実施した。庇護希望者は、第1回目の審問への弁護士の参加を認められなかった。後見人のいなかった15歳以下の子どもや障害者など弱い立場にいる人の場合は例外だった。

法務省が任命する難民審査参与員から成る外部審査機関は、難民認定が不認定となった人の異議申し立てを審査する第2回審問を実施した。参与員の前に出頭する人は全員弁護士をつける権利を有した。法務省は参与員の意見を聴くことが義務付けられているが、意見の受け入れは義務付けられていない。法律の専門家は、法務省の統計では2020年に異議を申し立てた6475人の申請者のうち、難民審査参与員が1人だけしか推薦しなかったことを挙げ、審査制度が公平な判断を下しているか否かに疑問を呈した。

入管当局はまた、手続きに関する問題について庇護希望者からの苦情を審査する審問も行った。

ほとんどの難民および庇護希望者は、政府の援助による法的支援を受けることができなかったため、日本弁護士連合会が、経済的余裕のない申請者に対して無償で法律支援を行うプログラムに、引き続き資金を提供した。

不正にあるいは在留許可書なしで日本に入国した庇護希望者は収容の対象となったが、庇護希望者は申請を提出する前に次第に有効なビザを持つようになっていた。法務省は2020年、一時滞在者や特定活動を含む約95%(3936人の申請者のうち3721人)が有効なビザを持っていたと発表した。

2020年、政府は44人の庇護希望者に対して、人道的理由に基づき滞在許可を与えた。法務省によると、2019年(入手可能な最新データ)の自発的な本国帰還件数は8967件、不本意な国外退去件数は516件だった。2019年12月現在、国外退去命令の対象となる2217人が収容施設外で生活することを許可された。国外退去命令を受けた942人は収容施設に留置された。収容されうる期間に制限は設けられていない。法務省によると、COVID-19への対応として、ほとんどの被収容者が感染拡大を防ぐために入管収容施設外への滞在を許可された(「第1部 C. 刑務所および収容施設の状況」を参照)。

法務省、日本弁護士連合会、およびNGO「なんみんフォーラム」は、一定の基準を満たす者に住居、日本で生活するための助言および法的サービスを提供する収容代替措置事業を引き続き協力して実施した。このサービスは、成田空港、羽田空港、中部空港、および関西空港に到着する難民認定申請者が受けられた。この事業は、日本政府が助成する市民組織の資金および寄付金で賄われた。

日本法輪大法学会によると、法務省は4月、国内に居住する中国籍の法輪功学習者に初めて難民認定を行った。この女性は、中国に戻れば宗教的な迫害を受けることを恐れていた。女性は8年間日本に住んでおり、認定されるまでに何度も難民申請をしていた。

法務省は8月、5月に日本で行われたサッカーの試合で、ビルマ軍事政権に公然と抗議した後、ビルマに戻れば命の危険があるとの懸念を表明したビルマ代表のサッカー選手ピエ・リアン・アウン氏を難民認定した。この認定は、異例のスピードで裁定された。

ルフールマンの原則:国外退去命令を受けた者は退去を拒否する権利があり、多くの場合、自国に戻ることへの恐れや、家族が日本国内にいることを理由に、国外退去命令を受けたたいていの者が退去を拒否した。2019年12月に発表された法務省の統計によると、国外退去命令を受けている者のうち、相当数が国外退去を拒否した。国外退去を拒否した者のうち、2019年は60%が難民申請中だった。法律により政府は、国外退去命令対象者の難民申請の結果が出るまでは退去させることができないが、数年かかることもある手続き中は、収容されるのが一般的だった。

9月、東京高等裁判所は、スリランカ人男性2人が難民認定申請却下に対する不服を訴える機会を与えられず強制送還されたのは憲法上の権利を侵害するとの判決を下した。裁判所は、入管当局が「男性たちが訴訟を起こす前に強制送還できるように、異議却下の結果を(男性たちに)通知するのを意図的に遅らせた」と判断した。スリランカに強制送還された原告の1人は、政治的な理由で弾圧を受けていたため、強制送還されたことにより身を隠すことを余儀なくされた。

移住者・難民への虐待:NGOは、難民および庇護希望者の無期限の収容や収容施設の環境に、引き続き懸念を表明した。法律の専門家とUNHCRは、長期にわたる収容は、たいていの場合、医療上の仮放免が許可されることになる健康上の懸念を意図したハンガーストライキなどの抗議を収容者たちの間に引き起こしたと指摘した。

移動の自由:在留許可を与えられた庇護希望者は、居住場所の当局への報告などいくつかの条件付きで、好きな場所での定住と日本国内の自由な移動が認められていた。収容施設内および国外退去命令を受けた庇護希望者は、人身取引の被害者である、あるいは法務省が特別の理由に基づいて判断した他の状況において、病気での仮放免が認められる。仮放免は、就労を許可しておらず、月に1度出入国在留管理局への出頭、居住する都道府県以外への移動の事前届け出、居住先の変更があった場合の出入国在留管理局への届け出などいくつかの制限が設けられている。仮放免制度はまた、個人により異なるが、最高300万円(2万7500ドル)の保証金が義務付けられる。仮放免の要件に従わない難民認定あるいは庇護希望者は、収容施設に戻され、保証金が没収の対象となる。法律家は、最近の事例では、不法就労で摘発された者が最低3年以上の収容処分を受けたと指摘した。

雇用:難民申請時に有効なビザを持っている、かつ当局が難民認定される可能性があると判断した庇護希望者は、難民と認定される可能性があるとされた日から8カ月以内に就労許可の申請を行うことができる。個人が収入を得る活動に従事するには、ビザの有効期限内に許可を申請しなければならない。就業には就労許可が必須となる。許可を得るまでの間、経済的に困難な状況にある一部の申請者に対し、政府が出資するアジア福祉教育財団の一部門である難民事業本部が、少額の給付金を支給した。

難民と認定された人は、全ての労働権を有する。

基本的なサービスへのアクセス:就業する権利を得る条件を満たす人を除き、庇護希望者は健康保険もなく、限られた社会保障しか受けることができなかった。こうした状況下では、過密状態の政府のシェルターや、違法就労、政府の財政援助、またはNGOの援助に頼らざるを得なかった。

難民認定を受けた人は、しばしば他の外国人が経験するものと同様の、住居、教育、雇用の機会を制限される差別を受けた。

永続性のある解決策:通常の庇護申請制度に加え、政府は第三国定住難民制度により難民を受け入れることができる。2020年4月、政府はこの制度で受け入れる難民の上限を30人から60人に引き上げた。NGOはこの増加に注目しつつも、難民の受け入れ数が全体的に少ないことに引き続き懸念を表明した。また、COVID-19関連の懸念により、受け入れ人数引き上げの実施が遅れた。

一時的な保護:政府は2020年、難民と認定されない可能性のある44人を一時的に保護した。44人のうち25人は日本人と結婚している、あるいは子どもが日本人だった。10人のシリア人を含む残りの19人は、母国での状況から在留許可を与えられた。彼らはコミュニティーでの居住・就労が可能となった。

出入国在留管理庁は8月、アフガニスタン人を本人の意思に反して強制送還しないと発表した。

2月にビルマで発生した軍事クーデターを受け、政府は5月に在日ビルマ人約3万5000人に在留を許可する緊急措置を実施した。この措置により、在日ビルマ人は職業に応じて6カ月から1年のビザ延長が可能になった。難民認定を申請した約2900人のビルマ人は、政府が以前申請を却下した場合でも、6カ月のビザ延長が認められた。

およそ300人のロヒンギャ族イスラム教徒もまた、人道的理由による特別在留許可あるいはビルマでの民族的および宗教的迫害を理由に、一時滞在の在留資格により日本に住んでいた。難民認定を受けたロヒンギャ族は20人未満だった。ほぼ同数のロヒンギャ族の庇護希望者が収容施設から仮放免となったが、就労が許可されておらず、再度収容される可能性がある。

G. 無国籍者

法務省は、移民に関する規定に基づき、2019年には627人が無国籍だったと発表した。しかし法律の専門家は、この数字は合法的な滞在許可証を持つ無国籍者に限定されているため、無国籍者の数は公式の数字を上回る可能性があると主張した。

法律により、20歳以上の無国籍者は、継続して5年以上日本国内に住んでいること、素行が善良であること、財政的安定があることなど一定の基準をみたせば、帰化する資格が与えられる。

第2次世界大戦終結時、日本による朝鮮統治が終わると、日本国籍を剥奪された日本生まれの朝鮮半島に出自のある子どもは、彼らの両親同様、外国人とみなされていた。このような人たちは選挙権を持たず、公職に就けない場合もある。朝鮮半島の南北分断後、韓国にも北朝鮮にも忠誠を誓わなかった人たちは、「朝鮮半島(コリアもしくは朝鮮)出身市民」という特別区分に該当する。こうした人たちは、法律の専門家によって事実上の無国籍者とみなされており、韓国籍を要求するかあるいは日本国籍を求めることを選択できる。こういった朝鮮半島に出自のある人たちは旅券を所持しないが、政府が発行する一時渡航書で海外に渡航することができ、特別永住者とみなされた。

出入国在留管理庁は7月、無国籍児に関する調査を初めて実施した。6月時点で、日本には4歳未満の無国籍児が217人いた。法務大臣は7月、子どもの国籍を証明する書類がなく、出身国当局による正式な措置が必要なため、結果的にこうした子どもたちは無国籍となったと発表した。法務省もまた、国内の無国籍児に関する正式で包括的なデータがないことを認めた。

2月、日本でガーナ人の両親から生まれた子どもが、与党自民党の勉強会で、日本で生まれながら事実上無国籍であることについて話した。法務大臣もまた、「日本で生まれたこのような子どもたちが、(国籍がないという理由で)自らが持つ権利の根拠を奪われるのは重大な問題である」と認めている。

日本に居住するロヒンギャ族に子どもが生まれた場合、依然として事実上無国籍となった。

第3部 選挙および政治への参画

法律により、日本国民には、平等な普通選挙権に基づき、無記名で実施される、自由かつ公正な選挙により政府を選ぶ力が与えられている。

選挙と政治参加

最近の選挙:国際的な専門家によると、10月の衆議院議員選挙は、自由かつ公正であった。2019年に実施された参議院議員選挙もまた、自由かつ公正とみなされた。

11月1日、弁護士が全国14の高等裁判所とその支部で、全選挙区での衆議院議員選挙結果の無効を求める訴えを起こした。弁護士は、人口が最大の選挙区と最小の選挙区で1票の重みに格差があるのは違憲であるとした。同様の訴訟で、最高裁は2020年、2019年の参院選を合憲とする一方で、国会が一票の重みの是正をほとんど進めなかったことに懸念を表明した。

女性およびマイノリティーグループの参画:国民であれば、女性、歴史的に疎外されたグループあるいはマイノリティーグループの政治過程への参画を制限する法律はなく、実際に参画した。女性の投票率は男性と同等か、もしくは高い状況にあった。しかし、女性はどのレベルにおいても、この傾向を反映した比率では選出されていない。

国会議員、地方議会議員ともに女性の当選者数は依然として少なかった。国政レベルでは、10月の衆議院選挙後、女性衆議院議員の比率は9.7%であった。参議院では、選出された女性議員の割合は22.6%だった。衆参両議院とも、選出された女性の割合は下がった。前回は、衆議院で10.1%、参議院は23.1%であった。内閣府男女共同参画局によると、2020年の地方議会における女性議員の平均比率は14.5%だった。

女性候補者の数も少なかった。10月の衆議院選挙の候補者に占める女性の割合は17%で、前回の17.8%から減少した。法律は各政党に対して、国政および地方選挙の候補者名簿において、男性と女性の候補者数を同等にするよう最大限の努力を求めている。これとは別に政府の計画では、2025年までに国政および地方選挙において、女性候補者の数を全候補者の35%に引き上げるよう、政党に最善の努力をするよう促している。法律も政府の計画も、女性候補の割当数を強制するものではなく、これらの目標を達成できなかった場合の罰則もない。

4月の補欠選挙では、ある女性候補が選挙戦中に、与党自民党から、未経験で「無知」な女性候補が国会議員に立候補できると思っているのは傲慢だと非難されるなど、数々の性に基づく差別があったと報告した。また、選挙活動中の女性候補者に有権者が不適切に触れたり、セクシュアルハラスメントを行ったりしたとの報告もあった。

選挙に立候補する障害者の数は非常に少なかった。

民族に基づくマイノリティーグループの中には、混合民族の血を引く国会議員もいたが、マイノリティーであることを自ら明らかにしているとは限らないため、その数を把握するのは困難であった。

第4部 政府の汚職と透明性の欠如

法律により、公務員による汚職には刑事罰が規定されており、日本政府は全般的に法律を効果的に執行した。文書に記録された公務員の汚職事例があった。

独立した立場の学識経験者は、政・官・財のつながりは密接であり、汚職は依然として懸念される問題だと述べた。公務員が関与した財務会計に関する不祥事が捜査された。

汚職:政治家の汚職事件では、2月5日に東京地方裁判所が、元参議院議員の河井案里被告に懲役1年4カ月、執行猶予5年の有罪判決を言い渡した。10月21日、同裁判所が河井案里氏の夫で元衆議院議員の河井克行被告に下した懲役3年、追徴金130万円(1万1900ドル)の判決が確定した。2020年、河井案里氏の選挙で票を獲得するために現金を支払った罪で夫妻は逮捕・起訴された。夫妻は国会議員の議席を、2月3日(案里)および4月1日(克行)に失った。

6月4日、総務省の職員13人が、利害関係者からの便宜供与を禁じた政府の国家公務員倫理規程に違反していたことが発覚した。菅義偉前首相の息子、菅正剛氏ら衛星放送会社「東北新社」の関係者が2016年から2020年にかけて、39回にわたり13人の総務省職員に数千ドル相当の便宜を図っていた。13人のうち11人は行政処分を受け、起訴された者はいなかった。刑事訴追ではなく、内部の行政処分であったことを反映した軽い処分であった。

9月、東京地方裁判所は、秋元司元自民党衆議院議員に対し、日本のカジノ市場参入を目指す中国のギャンブル事業者から2017年9月から2018年2月にかけて760万円(6万9700ドル)相当の賄賂を受け取ったとして有罪判決を言い渡した。秋元氏は、同社の顧問2名に対し虚偽の証言をする代わりに金銭を提供したことでも有罪となった。秋元氏は2017年から2018年にかけて、内閣府副大臣としてカジノ運営の合法化に向けた政府主導の取り組みの責任者であった。同氏は懲役4年、罰金760万円(6万9700ドル)の判決を受けたが、判決を不服として高等裁判所に控訴した。10月時点では、まだ控訴中であった。

第5部 人権侵害の疑いに対する国際機関および非政府機関の調査に対する政府の姿勢

国内外の人権団体は、全般的に、政府による制約を受けずに活動し、人権侵害の事例について調査し、調査結果を公表した。政府関係者は、通常協力的であり、こうした団体の見解に対応した。

政府の人権機関:法務省の人権相談所が全国300カ所以上に設置されていた。約1万4000人のボランティアが、直接面談して、あるいは電話やインターネットを通じて質問に答え、秘密厳守で相談に応じた。50カ所の相談所では、10カ国語での相談が可能であった。こうした相談所は、問い合わせに対応するが、関係者の承諾がなければ個人や公的機関による人権侵害を調査する権限がない。相談所は助言と仲裁を行い、児童相談所や警察など他の政府機関と連携した。地方自治体には、さまざまな人権問題を扱う人権担当部署が設置されている。

法務省によると、全国の地方法務局は2020年、9589件の人権侵害事例の救済手続きを開始した。そのうち1693件はオンライン上の人権侵害で、256件はセクシュアルハラスメント事例だった。COVID-19関連の人権侵害は175件であった。このようなケースの一例だが、COVID-19で陽性となったある個人は、パートナーが医療従事者であると保健所が知った時点で医療を拒否された。保健当局はその個人に対して、外部機関ではなくパートナーから治療を受けることを勧めた。

第6部 差別や社会的虐待

人種、民族、国籍、性的指向、性自認に基づく差別は禁止されていない。

女性

強姦および配偶者からの暴力:法律により、サバイバーの性別を問わず、さまざまな形態の強姦が犯罪とされ、暴行または脅迫を用いた膣、肛門、口腔への陰茎挿入は犯罪と定義されている。強姦で起訴されるのは男性のみで、法律は男性器の使用がない場合は強姦と認めていない。体の他の部分や物を用いた強制挿入は、強姦ではなく強制わいせつとなる。性的同意年齢は13歳で、これが児童への性的暴行の訴追を難しくした。また、18歳未満の未成年者に対する監護者による強姦も犯罪とされている。法律は、配偶者間の強姦可能性を否定しないが、婚姻が破綻している状況にある場合(正式な離婚または別居など)を除いて、そのような判決を下した裁判所はこれまでにない。法律は、強姦の有罪判決に5年以上の懲役を義務付けている。検察官は、暴力または脅迫があったこと、あるいはサバイバーが抵抗できなかったことを証明しなければならない。強制わいせつを行った者は、6カ月以上10年以下の懲役刑に処せられる。配偶者からの暴力も犯罪にあたり、サバイバーは加害者に対して、裁判所による保護命令を申し立てることができる。暴行加害者は有罪になると、2年以下の懲役、もしくは少額の罰金が科せられる。人の身体に傷害を加えた者は、有罪となった場合、15年以下の懲役、もしくは少額の罰金が科せられた。保護命令に違反した者は、1年以下の懲役、もしくは少額の罰金が科せられた。警察庁は、2020年に8万2643件の家庭内暴力(DV)の報告を受け、2003年以降連続して増加し過去最多を記録した。

10月、内閣府男女共同参画局は、DVの相談件数が2020年の同期間に比べ減少したと報告した。4月から9月に受けた相談件数は9万843件で、2020年の同期間は9万6132件だったと報告した。厚生労働省は、DVや性暴力から逃れてきたサバイバーに対して、住民票がある自治体ではなく、実際に居住する自治体から公的サービスを受けることを認めた。

強姦およびDVは、届け出がかなり少ない犯罪であった。この分野の専門家は、女性が強姦の届け出に消極的なのは、非難されることへの不安、公の場で辱めを受けることへの恐れ、サバイバー支援の不備、警察の対応の際の2次被害の可能性、強姦被害者に対する共感を欠く裁判手続きなどさまざまな要因にあるとした。

3月、43歳の女性会社役員が、17歳の少年にわいせつ行為をした疑いで逮捕された。警察によると、女性とサバイバーの出会いはソーシャルメディアであった。

生活の本拠を共にする交際相手、配偶者、元配偶者からの暴力の被害者は、政府あるいはNGOが運営するシェルターにおいて保護を受けることが可能であった。

セクシュアルハラスメント:法律は事業主に対して、職場でのセクシュアルハラスメント防止に向け努力することを義務付けている。しかし、そのようなセクシュアルハラスメントは依然としてあった(「第7部 D」を参照)。

セクシュアルハラスメントは社会でも根強く残っていた。電車内で女性や少女の体を触る痴漢行為をはたらく男性は依然として問題となった。NGOのDPI 日本会議は、電車内や駅構内で車いすの女性や視覚障害のある女性へのセクシュアルハラスメントやストーカー行為が依然としてあったと報告し、鉄道事業者数社に対して、障害者が乗車していることを告げるアナウンスを止めるよう求めた。このようなアナウンスの中には、車両や駅名が含まれることもあった。報告によると、鉄道事業者数社は、駅員や乗務員が事故を防ぐよう、このようなアナウンスを用いていた。しかし、DPI 日本会議は、アナウンスは犯罪者予備軍に、身体障害のある女性乗客がどこにいるかを教えることになったと指摘した。NGOの要請に基づき、国土交通省は7月、鉄道事業者に別の情報伝達手段の使用を検討するよう要請した。8月、国土交通省はオンライン会合を実施し、60社以上の鉄道事業者の代表者たちがDPI 日本会議の担当者から、電車内や駅構内での障害のある女性へのハラスメントやストーカー行為について学んだ。8月末時点で、DPI 日本会議は、主に首都圏で鉄道事業者数社が依然としてアナウンスを続けていると報告した。

8月、主に高校生と大学生からなる日本若者協議会ジェンダー委員会は、オンライン運動「NoMoreChikan」を実施し、痴漢防止に向けて抜本的かつ本腰を入れた措置を講じるよう政府に求めた。8月下旬に開かれた記者会見で同委員会は、政府に対して、痴漢の徹底調査、被害にあった場合の対処法などを含む学校での啓発と教育の拡大、加害者を対象とした矯正プログラムの設置を求めた。委員会は、請願のため2万7000以上の署名を集め、9月に要望書を文部科学省、各政党、東京都議会に提出した。

リプロダクティブ・ライツ(性と生殖に関する権利):政府当局による強制中絶や不本意な避妊手術に関する報告はなかった。

法律はトランスジェンダーの人々に対して、自らの性自認を法的に認定させるため、生殖機能を持たないことを義務付けており、事実上ほとんどの人に対して不妊手術を義務付けている(小節「性的指向および性自認に基づく暴力行為、犯罪化、その他の虐待」を参照)。

法律は、妊娠中絶において、配偶者の同意を義務付けている。

3月、厚生労働省は、DVのサバイバーが配偶者の同意なしで中絶を可能とするガイドラインを策定した。強姦のサバイバーが、加害者の同意がないため中絶を拒否された報告があった。日本医師会は産婦人科医に対して、中絶を望む性的虐待のサバイバーから起訴状や判決文といった書類を求めるよう指示した。

政府は、性的暴力のサバイバーが警察または各都道府県にある政府指定支援センターに支援を求めた場合、サバイバーへの性と生殖に関する医療サービスを助成した。このようなサービスには診察や緊急避妊薬が含まれた。

差別:法律により性別による差別は禁止され、全般的に女性には男性と同じ権利が与えられている。内閣府男女共同参画局は引き続き、政策を検討し、その進捗状況を監視した。

法律やそれに関連する政策にもかかわらず、NGOは引き続き、性差別撤廃措置の実施が不十分であるとし、法律における差別的な条項、労働市場での女性に対する不平等な扱い(「第7部 D」を参照)、選挙で選ばれた議員の中に女性が少ないことを指摘した。

選択的夫婦別姓制度の採用に関する政府への要請は引き続きあった。民法は、夫婦が単一の姓を共有することを義務付けている。政府によると、結婚した夫婦の96%が夫の姓を採用している。6月23日、最高裁判所は、夫婦同姓を義務付けている法規定を合憲とする判決を下した。判決は、2015年の判断を支持し、この問題を国会で議論するよう求めた。

2月、元首相で東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の森喜朗会長は、女性は話し過ぎるため、女性が参加している会合は時間がかかると発言し、その後辞任に追い込まれた。

3人の高校生が大手コンビニエンスストアに対して、総菜シリーズの名前を「お母さん食堂」から変更するよう求める陳情で7500人以上の署名を集めた。高校生たちは、名前には固有の性差別があり、料理と家事は妻の仕事であることを示唆し、社会的偏見を深める可能性があると主張した。

警察庁の統計によると、2020年に自殺した女性の数は7026人で、前年比15%増加した。2月、首相はこの問題を閣僚レベルに引き上げ、地方創生担当大臣を自殺問題担当大臣に任命した。与党自由民主党の孤独・孤立対策特命委員会は、自殺増加は、配偶者や子どもの在宅度の増加などCOVID-19に起因するストレス、過去最多のDV件数、多くの人気有名人の自殺が要因にあるとした。政府はまた、2020年の働く女性の自殺者は、2015年から2019年の年平均1323人と比較して、1698人だったと報告した。政府は、28%以上の増加は、解雇が女性側に偏ったCOVID-19に要因があるとした。男性および無職もしくは自営業の女性の自殺者は減少した。その対策として、内閣府男女共同参画局は、日本語と10カ国語でのソーシャル・ネットワーキング・サービスを通じて24時間のホットラインと相談サービスを継続した。

人種・民族への組織的暴行や差別

人種、民族、宗教的差別を禁止する包括的な法律はない。

日本で生まれ、育ち、教育を受けた多くの外国人を含む、日本で永住権を有する外国人と帰化した日本人は、差別に対する法的な保護措置があるにもかかわらず、住居、教育、医療、および雇用の機会の制限など、さまざまな形で根深い社会的差別を受けた。外国人や、「外国人のように見える」日本国民は、ホテルやレストランなど一般の人々にサービスを提供している民間施設への入場を、時には「外国人お断り」と書かれた看板によって禁じられたと報告した。

政府高官は、民族集団への嫌がらせが差別を助長するとして公に拒絶し、国内のあらゆる人の個人の権利を保護することを再確認した。

朝鮮半島に出自のある人たちのコミュニティーの複数の代表は、公共の場とソーシャル・ネットワーキングのウェブサイトで朝鮮半島に出自のある人たちに対するヘイトスピーチが続いたと述べた。

法律の専門家によると、トランスジェンダー女性および朝鮮半島の民族、特に朝鮮半島出身の女性や学生に対するヘイトスピーチと憎悪犯罪件数が多かったが、その他の人種や少数民族に対しての事案もあった。法律の専門家は、COVID-19発生後は中国人、そして2020年7月の国立アイヌ民族博物館開業後はアイヌに対するヘイトスピーチが増加したと指摘した。

5月、東京高等裁判所は大分県に住む男性に、ブログに在日韓国・朝鮮人について差別的なコメントを投稿したとして130万円(1万1900ドル)の損害賠償の支払いを命じた。判決は、コメントに人種差別があったと判断した。原告は、インターネットサービス事業者から得た発信者情報を活用して被告の身元を割り出した。

(北朝鮮政府と深い関係のある団体によって運営されている)東京にある朝鮮大学校に通う学生は、COVID-19を起因とした学生たちの経済的困難の軽減を目的とする政府給付の財政支援の対象外となった。政府は、高等教育機関として認可していない朝鮮大学校の除外は、人種、民族、国籍に基づく差別にあたることを否定した。

埼玉県にある在日韓国・朝鮮人系幼稚園は、学童と就学前児童にマスクを配布する政府の取り組みの対象外となったと報告があった。

7月、最高裁判所は、朝鮮学校への授業料補助金支給を政府に求めた訴えを却下した。朝鮮学校は在日韓国・朝鮮人に教育を提供しており、政府は認可していない。64校の朝鮮学校を除き、全ての私立高校は政府から授業料補助金を受けた。都道府県は朝鮮学校を認可し、独自に補助金を支給できる。

法律は部落民(封建時代に社会的に疎外された者の子孫)に対する差別の問題に取り組むことに特化している。この法律は、国および地方公共団体に部落差別について調査し、啓発教育を行い、相談体制を充実させるよう義務付けている。

部落民の権利擁護団体は引き続き、部落民コミュニティーで社会経済的状況の改善を実現したにもかかわらず、雇用、結婚、住居、不動産価値評価の面での差別が横行している状況が続いたと報告した。公式に部落民というレッテルを貼って部落出身者を識別することはもうなかったが、戸籍制度を利用して部落民を識別し、差別的行為を促すことが可能であった。部落民の権利擁護団体は、多くの政府機関も含め、就職希望者の身元調査のため戸籍情報の提出を求めた雇用者が、戸籍情報を使って部落出身の就職希望者を識別・差別することがあるかもしれないと懸念を表明した。

先住民

法律は、アイヌを先住民族として認めており、アイヌ文化を保護・促進し、アイヌ差別を禁止している。法律は、国および地方自治体に対して、地域を支援し、地域経済と観光業を振興する対策を講じることを義務付けている。法律は、アイヌの自決権や民族に関する他の権利を規定しておらず、またアイヌの教育権を明記していない。

アイヌ差別が引き続き横行しているとの報告があった。3月、日本テレビはアイヌに対する中傷が入った内容を放送、4月には、同様の蔑視表現を使った落書きが東京で見つかった。年間を通して、オンライン上でヘイトスピーチがあったとの報告があった。

日本政府は琉球民(沖縄と鹿児島県の一部の住民を指す言葉)を先住民族と認定していないが、彼らの独自の文化と歴史を公式に認め、その伝統を保存し尊重する努力をした。

子ども

出生届:法律では、子どもの父親が日本人でその子の母親と結婚しているか、子どもを認知している場合、子どもの母親が日本人である場合、または子どもが日本で生まれ、その両親が不明あるいは無国籍の場合に、生まれた子どもに日本国籍を認めている。法律は、出生時には国籍を持たないが、出生後3年以上連続して日本に居住している者に対して、帰化のいくつかの条件を免除しているが、追加条件なしで国籍を与えてはいない。

法律により、国内で生まれた子の場合は14日以内に、国外で生まれた子の場合は3カ月以内にそれぞれ出生届を出すことが義務付けられており、この期限はおおむね順守された。提出期限を過ぎた出生届も受理されたが、軽微な罰金が科せられた。

法律により、個人は出生届に子が嫡出子か非嫡出子かを明記することが義務付けられている。法律は、離婚成立から300日以内に生まれた子は離婚した男性の子であると推定しており、そのため、正確な人数は不明だが、子どもの出生届が出されず無戸籍となる状況が発生している。

子どもに対する虐待:児童虐待の報告件数は増加した。専門家は、増加の要因はCOVID-19の大流行期間中に社会的孤立が増加したことにあるとした。公式データによると、2020年に警察が捜査した児童虐待の件数は過去最多の2133件で、前年に比べ8.2%増加した。内訳は身体的暴力が1756件、性的虐待299件、心理的虐待46件、育児放棄32件だった。警察は生命の危険があった5527人の児童を保護し、虐待の疑いがあるとして過去最多の10万6991人を児童相談所に通告した。また2020年の児童虐待による死亡件数は57件で、うち半数(28件)は1歳未満の子どもだった。COVID-19により子どもが家族以外の人と関わる頻度が減少したため、さらに多くの虐待が発見されずにいる懸念があった。

文部科学省によると、教師による性的虐待の報告は半数以上減少した。主な理由は、社会意識が高まり、性的虐待をした教師が懲戒免職となったことだった。同省によると、全国各地の教育委員会は2019年4月から2020年3月までの間に、児童にわいせつ行為をしたとして、公立学校の教員126人を懲戒処分とした。同省は、懲戒処分を受けた教師の96%を教職から解雇した。法律上、教員免許は無効にはなるが、3年後に再び教員免許を取得することができる。子どもはまた、インターネットを通じて人権侵害の対象となった。小学生の写真や動画を、本人の同意なしに公共の場で公開するなどの違反があった。政府はサイト運営者に削除を要請し、報告によると多くのサイトがこれに応じた。

未成年者の結婚、早婚および強制婚:法律は、婚姻適齢について、男性は18歳以上、女性は16歳以上と規定している。20歳未満の者は、少なくとも両親のいずれかの同意がなければ結婚できない。男女の婚姻年齢を共に18歳とし男女間の婚姻開始年齢を統一する法律は、2022年4月に施行される。

子どもの性的搾取:子どもの商業的性的搾取は違法であり、懲役もしくは少額の罰金を含む罰則に処せられる。法定強姦に関する法律は、同意の有無にかかわらず13歳未満の少女との性交を犯罪としている。法定強姦をした者は3年以上の懲役刑に処せられ、法律は執行された。加えて、法律や条例は、未成年者の性的虐待に対処する。児童ポルノの単純所持は犯罪である。児童ポルノの商用化は違法であり、3年以下の懲役もしくは少額の罰金に処せられる。警察はこの犯罪の厳重な取り締まりを続け、ソーシャル・ネットワーキング・サービスを利用した性的搾取の事例が引き続き増加していると指摘した。NGOは、予防的な取り組みは加害者より被害者を対象としたものが多いことに引き続き懸念を示した。NGOは、性的同意年齢の低さが商業的性的搾取を受けた児童を人身取引被害者と公式に認知する取り組みを複雑にしたと報告した。

引き続き行われている「援助交際」や、出会い系、ソーシャル・ネットワーキング、「デリバリー・ヘルス」などのウェブサイトの存在が、性的搾取を目的とする児童の人身取引、およびその他の商業的性産業を助長した。NGOは、コロナ禍による失業や外出自粛策がオンラインによる子どもの性的搾取を助長したと報告した。成年男性と未成年の少女を結びつけるデートサービスやポルノ強要などの性的搾取を目的とする児童の人身取引「JK(女子高生)ビジネス」を取り締まる関係府省対策会議は、引き続き取り締まりを強化した。7都道府県の条例は、JKビジネスの禁止、18歳未満の少女による「援助交際」の禁止、またJKビジネス営業者に対して各都道府県の公安委員会に従業員名簿の登録を義務付けている。「JKビジネス」で働く少女を支援するNGOは、これらの事業と買春による子どもの商業的性的搾取の関連性を報告した。

報告によると、5月、北海道から選出された立憲民主党所属の本多平直衆議院議員は、自分のような50代の男性が、14歳の児童との同意の上での性交で逮捕されるのは「おかしい」と述べた。この発言は、党内で性的同意年齢を13歳から16歳に引き上げる議論をしている中であった。6月、本多議員は公式に謝罪し、党が厳重口頭注意とした発言の撤回を求めた。7月には離党し、国会議員も辞職した。

日本は、児童ポルノの製造および人身取引犯による子どもの搾取の場であった。

性描写が露骨なアニメ、マンガ、ゲームには暴力的な性的虐待や子どもの強姦を描写するものもあるが、日本の法律は、こうしたアニメ、マンガ、ゲームを自由に入手できるという問題に対処していない。

国務省の「人身取引報告書」を参照。

国際的な子の奪取:日本は、1980年に採択された「国際的な子の奪取の民事面に関する条約(ハーグ条約)」の締約国である。「ハーグ条約の順守状況に関する国務省の年次報告書」を参照。

反ユダヤ主義

日本に居住するユダヤ人の総人口は、およそ3000人から4000人である。反ユダヤ的な行動の報告はなかった。

人身取引

国務省の「人身取引報告書」を参照。

障害者

法律により、身体障害者、知的障害者、精神障害者、あるいはその他の心身に影響を及ぼす障害のある人たちに対する差別は禁止されており、公共および民間部門における障害を理由とする権利および利益の侵害は禁止されている。同法は、雇用、教育、医療およびその他のサービスの提供に関して、公共部門には合理的配慮の提供を義務付け、民間部門には努力義務を規定している。法律は、差別を経験した障害者の救済を規定しておらず、また違反した場合の罰則を設けていない。公共建築物の建設プロジェクトでは、障害者のための設備を整備することがアクセシビリティに関する法律で義務付けられている。政府は、病院、劇場、ホテル、およびその他の公共施設の経営者が、障害者用の設備を改善または設置する場合には、低金利の融資および税制上の優遇措置を認めることができる。それにもかかわらず、障害者はいくつかの公共サービスの利用において、物理的障壁に直面した。

障害者の虐待は深刻な懸念事項であった。障害者は、家族、障害者福祉施設職員および雇用者からの虐待を経験し、その中には障害のある女性に対する性的虐待もあった。障害者の中には、町中で障害者に対する言葉による虐待が増えたと報告した者もいた。

HIV・エイズ感染者に対する社会的不名誉

HIV・エイズ感染者に対する差別を禁止する法律はない。拘束力のない厚生労働省のガイドラインには、事業者はHIV感染を理由に人を解雇あるいは不採用にしてはならないと明記されている。裁判所は、HIV感染が理由で解雇された個人に損害賠償請求を認めてきた。

HIV・エイズ感染者に対する差別についての懸念、この疾患に伴う不名誉、および解雇の恐れが、多くの人にHIV・エイズの感染を公表させなかった。

性的指向および性自認に基づく暴力行為、犯罪化、その他の虐待

性的指向または性自認に基づく差別を禁止する法律はなく、そのような差別に対する罰則は存在しない。4月、三重県は全国で初めての県として、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クィア、インターセックス(LGBTQI+)の人たちに対して性的指向や性自認の公表を強要することを禁止し、同意なしに性的指向や性自認を公表することを禁ずる条例を施行した。しかし、条例は罰則規定も禁じた公表に対する救済制度も設けていない。LGBTQI+の人々の権利を擁護する団体からは、差別、アウティング、いじめ、嫌がらせ、および暴力行為の報告があった。

自民党は、LGBTQI+の人たちへの理解を促進する法案に「差別は許されない」と言う文言を加えることをめぐり、党実力者たちから強い反対があったため、先に進めることができなかった。報告によると、5月、自民党の簗和生衆議院議員は、性的少数者は生物学上、自然に発生する種の保存に背いていると主張した。

全ての新しい教科書は、LGBTQI+と性差別の問題に関して、9教科全体で広範囲の情報を取り入れた。

法律はトランスジェンダーの人々に対して、性自認を法的に認定するため、生殖機能を持たないことを義務付けており、事実上ほとんどの人に対して不妊手術を義務付けている。トランスジェンダーの人々はまた、精神鑑定を受け、国際疾病分類で認められていない疾病である「性同一性障害」の診断、未婚かつ20歳以上であること、20歳未満の子どもがいないことなどの追加条件も満たさなければならない。このような条件が満たされれば、家庭裁判所の承認を待って、性別が認定される可能性がある。

最高裁判所によると、2019年(入手可能な最新データ)に正式に新しい性別が認定された人は、2004年にそれが許可されてから過去最多の948人となった。しかし、権利擁護者は、差別ならびに戸籍上性別を変更するには厳しい条件が必要とされていることに対して、引き続き懸念を表明した。

5月、東京高等裁判所は、経済産業省がトランスジェンダー職員の女子トイレの使用を制限することを容認する判決を下し、一審の判決を覆した。職員は性同一性障害と診断されているが、戸籍上はまだ男性だった。職員はまた、経産省は職場の人たちに、本人の同意なしに性同一性障害であることを伝えたと主張した。裁判所は国に対して、この職員の上司による不適切な発言によって生じた精神的苦痛に対して11万円(1010ドル)の賠償金の支払いを命じた。

2020年11月、東京高等裁判所は、同級生にゲイであることを公表された後、2015年に校舎から転落した学生の両親が損害賠償を求めた控訴を棄却した。しかし、裁判所は、学生の性的指向を暴露することは違法であるとの判決を下した。

1万人以上のLGBTQI+の人たちを対象とした調査では、38%が性的な嫌がらせや暴行を受けたと報告した。あるトランスジェンダーの男性は、男性から性的暴行を受けた後、性暴力相談センターからの支援を断られ、被害届を提出しようとしたところ、警察に受理されなかったと報告した。法務省は2020年に、性的指向および性自認に基づく人権侵害の可能性について、15件の問い合わせを受け、法的な助言を提供した。

LGBTQI+の人々を取り巻く偏見が、依然として、差別や虐待を自ら報告する妨げになっていた。

LGBTQI+であることを公表している国会議員は1名おり、立憲民主党に所属している。

第7部 労働者の権利

A. 結社の自由と団体交渉権

法律は、民間部門の労働者が事前認可あるいは過度の要件なしに、組合を結成し、自分が選んだ組合に所属する権利を規定し、ストライキおよび団体交渉を行う権利を保護している。

公共部門の職員および公共企業体の従業員には、法律により、組合を結成し、自分が選んだ組合に所属する権利が制限されている。公共部門の職員は、公共部門職員の組合に参加することが許されており、こうした団体が公共部門の雇用者と賃金、労働時間、その他の雇用条件について一括して交渉することができる。国際労働機関(ILO)は、法律が一部の公務員の労働権をさらに制限する可能性があるとの懸念を引き続き表明した。公共部門の職員にはストライキをする権利がない。公共部門でストライキを扇動する労働組合の指導者は免職され、罰金または懲役に処せられる場合がある。消防職員および刑事施設職員には団結権と団体交渉権が認められていない。

発電および送電、運輸および鉄道、通信、医療および公衆衛生、郵便などの必要不可欠なサービスを提供する部門の労働者は、ストライキを実施する日の10日前までに当局に通知しなければならない。必要不可欠なサービスの提供に関わる従業員には団体交渉権がない。

法律は組合に対する差別を禁止し、合法的な組合活動のために解雇された労働者の職場への復帰を規定している。

日本政府は結社の自由、団体交渉権、および合法的なストライキについて規定する法律を効果的に執行した。政府の取り締まりと罰則は、公民権の否定に関わる他の法律と同等だった。団体交渉権は民間部門で一般的であった。

権利違反があった場合には、労働者または労働組合は労働委員会に異議を申し立てることができ、労働委員会は雇用者に措置を講じるよう義務付ける救済命令を発することができる。雇用者が措置を講じなければ、その後で原告はその問題について民事訴訟を起こすことができる。裁判所が救済命令を支持し、救済命令違反を認定した場合、罰金、禁固、またはその両方の罰則に処すことができる。

短期雇用契約の増加は、正規雇用を損ない、団体活動を妨げた。

B. 強制労働の禁止

法律によりあらゆる形態の強制労働は禁止されている。しかし、この法律では、何が強制労働にあたるのか明確に定義されていないため、このようなケースを追求する際は、検察官の裁量に委ねられる。

政府はおおむね法律を効果的に執行したが、一部の業種、特に外国人労働者が一般的に雇用されている業種では施行が不十分だった。強制労働に対する法律上の刑罰は、強制労働の形態、被害者、このような犯罪を訴追に適用した法律により異なった。中には、他の類似した重大犯罪に対する法律と比較して見合わないものもあった。例えば、法律は強制労働を犯罪とし10年以下の懲役を規定するが、収監に代わる少額の罰金刑も認めている。NGOは、複数で重複する法令に依拠することが、特に心理的抑圧の側面がある強制労働に関わる人身売買の犯罪について、政府による特定と訴追を阻害していると主張した。

製造業、建設業および造船業において強制労働の兆候が引き続きあった。これは主に、技能実習制度(TITP)を通じて外国人を雇用している中小企業にみられた。TITPは、外国人労働者が日本に入国し、事実上の臨時労働者事業のような形で最長5年間の就業を認める制度であり、この分野の多くの専門家は人身取引およびその他の労働者虐待の温床になりやすいと評価した。

TITPで働く労働者は、政府が禁止しているにもかかわらず、移動の自由およびTITP関係者以外の人物との連絡の制限、賃金の未払い、長時間労働、母国の仲介業者に対する多額の借金、ならびに身分証明書の取り上げを経験した。外国人技能実習機構は、技能実習生の職場を立入検査するなど、TITPを監督する。同機構は、検査官などの増員した人員を維持したが、機構は人員不足で、日本語を話せない人たちとの接触が不十分であり、労働権の侵害を特定するには効果的ではなかったという懸念を労働者団体は引き続き挙げた。

国務省の「人身取引報告書」も参照。

C. 児童労働の禁止と雇用の最低年齢制限

法律は、最悪の形態の児童労働全てを禁止している。15歳から18歳未満の年少者は、重量物の取り扱いや、運転中の機械の掃除、検査または修繕など、危険な、あるいは有害と指定される仕事でなければ、いかなる仕事にも従事することができる。また年少者の深夜業は禁止されている。13歳から15歳までの児童は「軽易な労働」であれば従事でき、13歳未満の児童でも芸能界であれば働くことができる。

政府はこれらの法律を効果的に執行した。児童労働に関する違法行為に対する罰則には罰金と懲役があり、他の類似した重大犯罪に対する罰則と同等だった。

子どもは、商業的性的搾取の対象となった(「第6部 子ども」を参照)。

D. 雇用および職業に関する差別

法律は雇用および職業に関し、人種、出身国、肌の色、性別、民族、障害および年齢に基づいた差別を禁止しているが、雇用および職業に関し、宗教、性的指向または性自認、HIVの感染、あるいは言語に基づく差別を明確には禁止していない。政府は適用法を効果的に執行したが、違反行為に対する罰則は、公職選挙法など公民権に関わる同種の法律と同等だった。

法律は、募集、昇進、研修や契約更新など、ある特定の状況での性差別を禁止している。法律は、強制的な服装規定(ドレスコード)には対処していない。法律は、女性の雇用にいくつかの制限を課している。法律は、女性が地下坑内での特定の作業や、非常に重いものを持ち上げる作業、ポリ塩化ビフェニルなど26種類の特定有害物質を散布する作業を行うことを制限している。また、妊娠中の女性や過去1年以内に出産した女性には別の制限が適用される。

法律は、男女同一賃金を義務付けている。しかし国際労働機関は、「同一労働同一賃金」という概念が取り入れられていないため、法律はあまりにも限定的であると評価した。7月に実施した2万4000社以上の企業を対象とした民間調査は、女性管理職の割合が過去最高の8.9%に上昇したことを示した。女性の2020年の平均月給は、男性の約74%にとどまった。男女雇用機会均等法には、全ての労働者の募集、採用、昇進、職種の変更に関して、たとえ差別する意図がなくても、差別的な効果のある(法律で「間接差別」と呼ばれる)方針や行為の禁止が含まれている。

女性は依然として、セクシュアルハラスメントやマタニティハラスメントなど、職場での不平等な待遇について懸念を表明した。法律は、セクシュアルハラスメントを犯罪としないが、男女雇用機会均等法は、企業に防止措置を講じることを義務付け、事例が発生した場合は企業に報告を求めるほか、行政による助言、指導、勧告を提供する。

男女雇用機会均等法違反が疑われる場合、厚生労働省はその問題について雇用者に報告を求めることができ、また助言、指導、是正勧告を行うことができる。雇用者が報告を怠る、あるいは虚偽の報告をした場合は、罰金を科すことができる。雇用者が厚生労働省の勧告に従わない場合、企業名を一般に公表する場合もある。都道府県の労働局雇用均等室の政府ホットラインは、セクシュアルハラスメントに関する相談に対処し、可能な場合は紛争を調停した。例えば、職場のハラスメントに関する厚生労働省のポータルサイトによると、2019年に都道府県の労働相談センターに寄せられた相談は、パワーハラスメントが8万7670件、セクシュアルハラスメント7323件、マタニティハラスメント2131件であった。

企業に対して職場でのパワーハラスメントとセクシュアルハラスメントの予防措置を講じることを義務付けた改正法の執行から1年が経過した6月、日本労働組合総連合会は、20歳から59歳までの働く男女1000人(会社役員、起業家、自営業者を除く)を対象に調査を実施したが、進展は限定的だった。調査によると、約3分の1が職場で何らかのハラスメントを経験していた。約40%は、ハラスメントが起きた時、雇用者は何の措置も講じなかったと回答し、その内の43%は、助けにならないと考えて誰にも言わなかった。

2020年10月、厚生労働省は、2017〜2019年度に大学や専門学校を卒業した男女1000人を対象に実施した就職活動中とインターンシップ期間中のセクシュアルハラスメントに関する調査を公表した。全体として、回答者の25%がセクシュアルハラスメントを経験し、9%が性的関係を強要されたと報告した。セクシュアルハラスメントを受けた後の行動を尋ねると、25%が何もしなかったと回答し、ほぼ8%が就職活動を止めたと回答した。

法律は、政府および民間企業に対し、障害者(精神障害者を含む)を法定雇用率以上雇用するよう義務付けている。国および地方公共団体の法定雇用率は2.5%、民間企業は2.2%である。法律により、従業員100人超の企業が障害者を法定雇用率以上雇用しなかった場合には、法定雇用数に足りない障害者1人当たりの少額の罰金を毎月支払わなければならない。障害者の権利擁護団体は、障害者を雇用するより義務付けられた罰金の支払いを選択する企業もあると主張した。政府機関による障害者の雇用が法定雇用率に満たない場合の罰則はない。

E. 許容される労働条件

賃金や労働時間に関する法律:法律は都道府県ごとに異なるが、全てのケースで公式な貧困線を上回る収入を提供するよう最低賃金を定めている。政府は最低賃金を効果的に執行している。

法律により、ほとんどの産業で労働時間は週40時間と規定されており、例外もあるが、一定の期間に認められる時間外労働の時間数は制限されている。違反者は、罰金と懲役を含む同種の犯罪に対する罰則と同等の罰則を受ける可能性がある。

労働組合は、依然として、政府が労働時間制限の執行を怠っていると批判し、政府職員を含め労働者は日常的に、法律で定められた労働時間を超えて働いた。

厚生労働省は、2020年度(2020年4月から2021年3月)に、過度の時間外労働が発生していると疑う理由のある職場2万4042カ所を立ち入り検査した。その結果、37%にあたる8904カ所で違反行為が見つかった。厚生労働省は、違反者に対して是正と改善に向けた勧告を行った。

有期雇用の労働者、いわゆる「非正規雇用」の労働者は、同じ仕事をしている正規雇用の労働者に比べ、賃金や福利厚生、雇用の安定性の面で劣っていた。働く女性のほとんどは非正規雇用だった。法律は雇用者に、業務内容が同一で、予想される職務内容と配置の変更範囲が同一である場合は、正規および非正規雇用労働者を同等に処遇するよう義務付けている。この法律は、大企業では2020年4月から、中小企業では2021年4月から施行された。

労働安全衛生基準:日本政府は労働安全衛生基準を定めている。労働者は、自らの雇用を危険にさらすことなく、健康や安全を脅かす状況から離れることができる。

厚生労働省が、ほとんどの業種の賃金、労働時間および労働安全・衛生基準に関する法律・規則の執行について責任を負う。国家公務員の労働安全衛生については人事院が所掌する。鉱業については経済産業省が、海運業については国土交通省が労働安全・衛生をそれぞれ所掌する。

政府は、労働安全衛生基準法を効果的に執行し、同法違反に対する罰則は同種の犯罪に対する罰則と同等だった。労働基準監督官は、重大な違反の場合には、安全でない操業を直ちに停止させる権限を有するが、重大でない場合は、拘束力のない指導を与えることができる。労働基準監督官は、抜き打ち検査を行い、制裁措置を講じる権限を持つ。政府の職員は、430万カ所以上の事業所を監督するには資源が不十分であったことと、順守させるには労働基準監督官の数が十分ではなかったことを認めた。

TITPにおける労働安全・衛生基準および賃金違反の報告がよくみられる。これには、危険な装置や不十分な研修に起因するけが、賃金や残業手当の未払い、過度の、時として誤った賃金控除、強制送還、および標準以下の生活環境が含まれた(「第7部 B」を参照)。

2020年、死亡や4日以上の労働者の欠勤を必要とする主な労働災害が13万1156件発生した(死者802人)。労働災害による死亡の原因として最も多かったのは、墜落・転落、交通事故および重機によるけがであった。また厚生労働省は引き続き、過労死による被害者を正式に認定した。被害者の元雇用者と政府は、条件が合致した場合、家族に対して賠償金を支払った。

職場での事故やけがを防ぐ厚生労働省の取り組みには、機材の正しい扱い方と安全装具の使用に関する確認リスト・研修教材・リーフレット・動画のほか、事故を最小限に抑えるための整理整頓された職場の推進が含まれる。