Flag

An official website of the United States government

Global Issues
2023年人身取引報告書(日本に関する部分)
4 MINUTE READ

*下記の日本語文書は参考のための仮翻訳で、正文は英文です。

国務省人身取引監視対策部

2023年6月15日

日本(第2階層)

日本政府は、人身取引撲滅のための最低基準を十分には満たしていないが、満たすべく相当の取り組みを実施している。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による政府の人身取引対応力への影響が仮にあったことを考慮しても、政府は前年の報告書対象期間と比較して、全体的に取り組みを強化していることを示した。ゆえに、日本は引き続き第2階層となった。こうした取り組みの中には、強制労働への陥りやすさを減らすため技能実習制度の見直しを勧告する有識者会議の設置、労働搾取目的の人身取引および性的搾取目的の児童の人身取引に焦点を当てた人身取引対策行動計画の承認、性的搾取目的の人身取引に対する有罪判決を増加させることが含まれていた。しかし、政府はいくつかの重要な分野で最低基準を満たしていなかった。労働搾取目的の人身取引および性的搾取目的の児童の人身取引事案を刑事捜査し、訴追する政治的意思の欠如を政府は引き続き示した。法執行機関は引き続き、人身取引の兆候を十分に審査しないまま商業的性産業において搾取を受けた何百人もの児童を特定し、児童の性的搾取を目的とする人身取引犯を罰することなく活動させた。当局は引き続き、厳しさが十分ではない刑を規定している法律に原則基づき、人身取引犯を訴追し、有罪判決を下した。また、少なくとも6年連続で、裁判所は、有罪判決を受けたほとんどの人身取引犯に対して、実刑の全ての執行を猶予するか、罰金刑のみを科した。技能実習制度における移住労働者の労働搾取目的の人身取引の報告が依然としてあったが、政府は技能実習制度内での労働搾取を目的とした人身取引被害者や男性の人身取引被害者を1人も認知しなかった。技能実習制度において、政府と送り出し国との協力覚書は、借金を理由に技能実習生を強要する主な要因の一つである、外国に拠点を持つ労働者募集機関による過剰な金銭徴収を防止する上で、依然として効果を発揮しなかった。当局は、統一性のない非効果的な認知・照会手順に依然として頼り、その結果、公務員は、人身取引の被害者となり、その直接の結果として犯した違法行為のみに基づき、被害者を不適切に処罰した。これらの手順のいくつかは、報告書対象期間に改定された。全ての都道府県が人身取引被害者に対して十分な保護支援サービスを提供したわけではなく、男性の被害者に対応できる政府のシェルターはなかった。人身取引の被害者となった女性と児童は、シェルターでの保護支援サービスを受けるために仕事や学校をやめなければならないことが多かった。

優先すべき勧告

  • 性的および労働搾取目的の人身取引を精力的に捜査・訴追し、有罪判決が下された人身取引犯に対する相当長期の刑期などの十分な処罰を求める。

  • 技能実習制度やその他のビザ制度の下で日本にいる人たちや、入国者収容施設に収容されている人たちなど、労働搾取目的の人身取引被害者の認知とケア提供の紹介に関する政府全体の標準作業手順を新たに策定し実施する。

  • 第三者のあっせんを介すことなく商業的な性的搾取を受けた児童や、技能実習制度や特定技能ビザ制度の下で働く移住労働者などの被害者が、認知され、かつ支援サービスを受けられるようにし、人身取引の被害者となり、その直接の結果として犯した違法行為のみによって不適切に拘束または強制送還されることがないよう審査を強化する。

  • 移動の自由があり、かつ外国人や男性の被害者向け支援サービスを提供するサバイバー中心のシェルターなど、人身取引被害者ケアのための資源を拡充する。

  • 国際法に沿って明白に人身取引を定義した人身取引対策法を制定する。これには、強制、詐欺や強要、または第三者によるあっせんを示すことを要件としない性的搾取を目的とする児童の人身取引を含む。

  • 外国人技能実習機構および出入国在留管理庁の職員を対象とした被害者認知の研修、外国人技能実習機構と非政府組織(NGO)との連携の向上、認定前の技能実習計画と契約の精査、職場の徹底的な調査、労働者が支払う過剰な手数料やその他金銭を課す機関や雇用主との契約解除、労働搾取を目的とした人身取引を示唆する労働違反の法執行機関への照会などにより、技能実習制度改革法の監督および執行措置の実施を強化する。

  • 要望があれば、全ての外国人労働者が雇用主や産業を変更できる公式な仕組みを確立する。

  • 実刑の代替として罰金刑を認める量刑規定を削除し、少なくとも4年を上限とする刑務所収容を含め、人身取引犯罪に対する処罰を強化するため、人身取引対策関連法を改正する。

  • 雇用主が外国人労働者のパスポートやその他の個人文書を保持することを禁止する法律を制定する。

  • 全ての労働者に支払いが課される募集費用およびサービス料を廃止することにより、移住労働者が借金による強制の被害に陥りやすい状況を減らす。

  • 労働搾取を目的とした人身取引の一因となる組織や雇用主による「処罰」合意、パスポートの取り上げ、その他の行為の禁止の実施を強化する。

  • 海外児童買春旅行に参加する日本人の捜査、訴追、有罪判決、処罰を行う。

訴追

政府の法執行の取り組みは依然不十分なままであった。日本には、国際的な法律に沿った定義を含む、包括的な人身取引対策法がなかった。日本は、成人および児童の商業的性行為、児童福祉、入国管理、雇用基準に関する異なる刑法を通して、性的搾取目的および労働搾取目的の人身取引犯罪を違法とした。「売春防止法」第7条は、人に商業的性行為をさせることを犯罪としており、詐欺的または威圧的な手段を用いた場合には最長3年の懲役、もしくは最高10万円(759ドル)の罰金を規定しており、暴行または脅迫が用いられた場合には最長3年の懲役および最高10万円(759ドル)の罰金に処した。同法第8条は、被告が第7条に規定された犯罪の対償を収受し、もしくは収受する契約を結び、または同対償を要求した場合には、最長5年の懲役および最高20万円(1520ドル)の罰金を科して処罰を強化した。「児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律」は、児童を商業的に性的搾取する行為、周旋、および勧誘を犯罪とし、最長5年の懲役もしくは罰金、またはその両方の処罰を規定していた。同法はまた、商業的性行為や児童ポルノ製造による児童の搾取を目的とした児童の売買を犯罪とし、最長10年の懲役を規定した。政府はまた、児童福祉法を用いて人身取引関連犯罪を訴追した。同法は、児童にわいせつもしくは有害な行為をさせる目的での児童の移送、または隠匿を幅広く犯罪とし、最長10年の懲役もしくは最高300万円(2万2760ドル)の罰金、またはその両方の処罰を規定していた。職業安定法および労働基準法はいずれも、強制労働を犯罪とし、最長10年の懲役もしくは300万円(2万2760ドル)以下の罰金を規定していた。しかし、厚生労働省は、労働基準法における「強制労働」の定義は国際法の人身取引の定義よりも狭く、実際のところ、労働基準法の「強制労働」の罪とされた稀な事案は、人身取引犯罪としては処理されなかったと報告した。性的搾取を目的とした人身取引に対し、懲役に代わる処罰として罰金刑を認めた場合、当該罰金刑は強姦のような他の重罪に規定される処罰と同等ではなかった。市民社会団体は、こうした重複する法律に頼っていることが、人身取引犯罪、特に心理的威圧の要素を持つ労働搾取目的の人身取引を伴う事案を認知や訴追する上での政府の能力を引き続き妨げていると報告した。報告によると、相対的に厳しい処分を下すと控訴を引き起こす可能性が高まり、それが全体的な有罪率の低下につながり、検察官の職業的地位に悪影響を及ぼすという認識のため、多くの検察官が職業安定法と労働基準法の適用を避けた。政府には、雇用主、募集を行う者、労働あっせん業者による日本人あるいは外国人労働者のパスポート、渡航書類または身分証明書の取り上げを禁じる法律がなかった。技能実習生のパスポートおよび在留カードの取り上げは禁じられていた。前年の報告書対象期間と同様に、政府からこの法律を執行する取り組みに関する報告はなかった。関係筋は、主要な法執行機関と司法関係者の人身取引に関する深刻な認識不足を引き続き報告した。

2022年1月から12月まで警察庁と厚生労働省は、60件の人身取引事案において22人の被疑者を捜査した。2021年は44件で、捜査した被疑者は61人であった。2022年、政府は32人の人身取引被疑者の訴追に着手し、7人の訴追を継続した。この7人全員が性的搾取目的の人身取引被疑者であった。2021年は37人(性的搾取目的33人、労働搾取目的4人)、2020年は50人の人身取引被疑者が訴追された。報告書対象期間末時点で、6人の訴追が継続していた。政府は、33人の性的搾取目的の人身取引犯に有罪判決を下した。2021年は24人(性的搾取目的20人、労働搾取目的4人)、2020年は50人の人身取引犯に有罪判決を下している。技能実習制度内での労働搾取を目的とした人身取引に関連する訴追および有罪判決はなかった。NGOが特定・支援した技能実習制度内での人身取引が疑われる被害者数と比べて、児童の性的搾取を目的とした人身取引に対する有罪判決数は極端に低いままであった。有罪判決を受けた人身取引犯33人のうち、27人は1年から8年の実刑を受けた。その中の16人は、刑の全部の執行が猶予された。裁判所は、6人の人身取引犯に対して、罰金刑だけの判決を下した。少なくとも6年連続で裁判所は、有罪判決を受けたほとんどの人身取引犯(67%、2021年は69%)に対して刑の全てを猶予するか、罰金刑を言い渡した。人身取引犯罪に加担した政府職員について捜査や訴追が行われた、あるいは有罪判決が下されたという政府の報告はなかった。

技能実習制度の下で労働搾取を目的とした人身取引の兆候が広くみられることが知られていたにもかかわらず、政府から技能実習生を搾取する人身取引犯に刑事責任を負わせるという報告はこれまでなく、また政府は、刑務所収容期間を含む、相応な処罰を用いた刑を下したこともなかった。NGOの支援サービス提供者は、再三にわたり技能実習制度の実習の事業場内で起きている具体的な労働搾取目的の人身取引の申し立てに注意を喚起したと報告した。政府は報告書対象期間の年にこのような実習事業場の調査を数千回も実施したにもかかわらず、当局は概してこれらの申し立てを潜在的な人身取引犯罪として積極的に捜査しなかったとNGOは主張した。NGOは、外国人被害者を巻き込んだ労働搾取目的の人身取引事案に対して、心理的威圧を裏付ける証拠ではなく虐待の物理的兆候に過度に依存するなど、裁判所が極端に高い証拠基準を設定しているため、適切な法執行措置を妨げていると報告した。政府は、ベトナムとの間に刑事共助条約を調印した。

性的搾取を目的とする児童の人身取引というまん延する問題に政府は対応せず、商業的性行為が第三者によりあっせんされたのでない限り、当局は実際に商業的性的搾取を受ける児童を性的搾取目的の人身取引被害者として正式に認知しなかったため、人身取引の法律の下で商業的性的搾取を受ける児童に関する事案を、通常は捜査・訴追しなかったと報告した。政府は2022年、少なくとも516人の加害者と422人の被害者が関与する性的搾取を目的とする児童の人身取引を630件報告した。前年の報告書対象期間と同様に、政府は、第三者であるあっせん者の関与の有無にかかわらず、加害者を潜在的な人身取引犯罪として訴追もせず、有罪判決も下さなかった。また、これらの事案に関係する児童の大多数を人身取引被害者としては認知しなかった。当局はここ数年でも、性的搾取を目的とする児童の人身取引に関する何百件もの事案(2017年から2021年は年間627件から956件で推移)を、正式に人身取引犯罪として捜査せずに処理した。2022年、政府は、未成年の女子高生と成人とをつなぐ出会い系サービスを容易にする、もしくは出会いに利用される場所である「JK」ビジネス関連の事案5件で9人の被疑者を逮捕した。8つの主要都道府県は、「JK」ビジネスを禁止し、18歳未満の少女が「援助交際」業で働くことを禁じるか、または「JK」ビジネスの営業者に対し、各地の公安委員会に従業員名簿を登録することを義務付ける条例を維持した。政府は、人身取引の法律や規制に関して、外国人技能実習機構、警察庁、厚生労働省などさまざまな政府省庁に対して人身取引対策研修を引き続き実施した。

保護

政府の保護への取り組みは依然不十分なままであった。政府は、29人の女性人身取引被害者を認知したが、前年の47人から減少した。外国人2人を含む29人の被害者には、性的搾取を目的とした人身取引の少女の被害者20人と女性被害者7人、強制労働の被害者2人が含まれていた。前年に認知された労働搾取目的の被害者は16人であり、前年より減少した。これとは別に、あるNGOは15人の強制労働被害者(男性10人、女性5人)を認知した。うち14人は外国籍であった。また、ある労働団体は、労働搾取を目的とした人身取引が含まれた可能性のある搾取的な状況に置かれた外国人労働者55人を認知した。また、性的搾取目的の人身取引被害者を支援しているあるNGOは、性的暴行や性的搾取、あるいは両方の被害者820人(女性532人、男性89人、性別不明199人)から支援の要望を受けた。この中には、性的搾取目的の新たな人身取引事案が含まれていた可能性があった。標準化された適切な指針の不足、省庁間の不十分な連携、全関係省庁間での性的および労働搾取目的の人身取引に関する不十分で統一性のない一連の法律が、被害者を認知し保護する政府の取り組みが不十分であったことの要因となった。政府は、人身取引事案の対応手順が含まれた法執行職員向けのハンドブックを改定したが、公務員が被害者を認知する政府の指針は、2010年に作成されてから改定されていないため、包括的でなく不十分なものであった。その結果、多くの被害者がケアを利用する妨げとなった。報告によると、公務員は商業的性的搾取を受ける女性と技能実習制度下の外国人実習生の間で人身取引の審査を行ったが、政府は技能実習生の中で人身取引被害者を1人も認知せず、「買春に関与させられた児童」数人のみを性的搾取目的の人身取引被害者として引き続き認知した。関係府省庁の従事者は、統一性のない不十分な被害者認知手順に従った。同手順には、あらゆる形態の人身取引、特に、性的搾取を目的とした児童の人身取引や移住労働者の労働搾取を目的とした人身取引は網羅されていなかった。専門家はさらに、特に外国人に関する事案に関して、さらに多くの継続した兆候があった事案においてさえ、警察と入管職員には人身取引の兆候に対する認識が不足していると報告した。商業的な性行為を禁止する法律の範囲が限定的なため、児童や成人の搾取が、合法化されてはいるもののほぼ規制されていない「デリバリー・ヘルス・サービス」や都市部の歓楽街にある商業的性行為の範囲内で広く起きた。政府による被害者の審査および認知手続きが不十分であり、性的搾取や労働搾取目的の人身取引に対する当局の誤った認識があったため、政府は引き続き、被害者を出入国管理法違反など、人身取引の被害者となり、その直接の結果として犯した違法行為のみを理由に逮捕、拘束、強制送還した可能性が高い。

2022年、9006人の技能実習生が職場から失踪した。その中には、搾取的または虐待的環境から逃げた者もいたが、当局は人身取引被害者として1人も認知しなかった。これは、7167人が失踪した2021年より大幅な増加となった。当局は、虐待的な雇用主や環境から逃れてきた技能実習生を引き続き強制送還の対象とした。労働契約の中には、日本で就労中、妊娠あるいは罹患した実習生を自動的に帰国させる違法な条項を含むものもあった。契約終了前に日本を出国する技能実習生に対して、出入国在留管理当局は1万3111件の面接審査を実施した。これは、前年の1万2865件からの増加となった。法務省は、出入国在留管理庁の職員が人身取引被害者を認知したかどうかについて報告はしていない。5人の技能実習生が、出国は強制されたものであったと報告した。

当局は、商業的性行為が第三者によりあっせんされたものでない限り、児童を性的搾取目的の人身取引被害者と認知せず、このことにより、何百人もの児童が、必要な被害者保護支援サービスを受けることも損害賠償請求権を利用することもできなかった。政府はまた、2000年に採択された国連人身取引議定書の定義上の基準に反して、性的搾取を目的とした児童の人身取引は、加害者による「被害者の支配」を要件とする理由で、全ての児童の商業的性行為事案を、性的搾取を目的とした児童の人身取引事案として扱わなかったと報告した。地方の法執行職員の中には、これまでの報告書対象期間に、13歳という異例に低い日本の性的同意年齢が、商業的性的搾取を受けた児童を、人身取引被害者として公的に認知する取り組みを一層複雑にしていると述べる者もいた。2023年3月、政府は性的同意年齢を16歳に引き上げる法案を国会に提出した。市民社会団体は、警察はレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クィアもしくはクエスチョニング、インターセックスなど(LGBTQI+)の児童を含む、性的搾取目的の人身取引被害者となる可能性がある一部の児童を、引き続き非行少年として扱い、人身取引の確認審査も、これら児童の事案の捜査も、または専用の支援サービスへの紹介も行わず、代わりにこうした児童に対して素行に関する助言を行ったと主張した。

ここ数年間と同様に、政府は、あらゆる形態の人身取引被害者に対して、サバイバー中心のシェルターや精神的・社会的ケア、法的支援などの、全体的に十分な保護支援サービスを提供しなかった。当局は、認知された人身取引被害者29人のうち9人のみについてケア提供を紹介した。その中の8人は児童であった。これは、15人の性的搾取目的の人身取引被害者および労働搾取目的の人身取引被害者を婦人相談所や児童相談所に紹介した前年よりも減少となった。政府は、男性被害者を1人も認知しなかったため、男性被害者にケア提供を紹介することはなかった。これとは別に、あるNGOは、労働搾取目的の人身取引被害者である可能性があった15人に支援サービスを提供した。政府から提供される被害者が利用できる支援サービスやその質は、都道府県ごとに大きく異なった。政府は、女性や児童の人身取引被害者とその他の犯罪の被害者のためにシェルターを提供することができた婦人相談所や児童相談所と、性的搾取目的の人身取引の一部の形態も含む性暴力被害者のための「ワンストップ支援センター」に資金を提供した。各都道府県には、婦人相談所、児童相談所、ワンストップ支援センターが少なくともそれぞれ1カ所ずつ設置されていた。婦人相談所のシェルターは、食料や、その他の生活必需品、精神的ケアおよび医療費を提供し、被害者は自由に出ることができた。しかしNGOの中には、こうした施設の物理的状況や支援サービスは貧弱で過度に制限されていると主張を続けた団体もあった。報告によると、シェルターの秘密保持のため、資源が不十分な都道府県にある婦人相談所は、保護を求める女性や児童に対して、仕事や通学をやめるよう求めた。さらに、市民社会の支援提供者は、人身取引被害者が支援を求めた場合、政府が被害者を正式に認知しない限り支援をすることができないと報告した。その結果、支援サービス提供が遅延した。婦人相談所は、LGBTQI+の人たち全員を収容することはできなかった。また、政府のシェルターは男性の人身取引被害者を収容することができなかった。政府は、男性の人身取引被害者にその他の一時的な収容施設を提供することが可能だと述べたが、それを実施したかについての報告はなかった。

合法的に日本に居住する被害者であれば受けることのできるその他の政府提供の社会支援サービスについては、外国人人身取引被害者の利用は限定されていたか、全く利用できなかった。政府は、女性人身取引被害者2人に在留許可を与えたが、2021年の11人から減少した。政府は、人身取引犯が日本で搾取した外国籍者への保護支援サービスについては、駐日外国公館からの提供に依存・期待した。報告によると、出身国へ帰国することに伴う影響を恐れる外国人被害者は、一時的もしくは長期的に、または定住者として在留する便益を受けることが可能であったが、被害者がこの便益を受けたかどうかについて、政府からの報告はなかった。政府は、日本で認知された外国人人身取引被害者に帰国支援や社会統合支援を提供する国際機関に対して、引き続き資金提供を行った。

被害者は人身取引犯に対して損害賠償を求める民事訴訟を起こすことができたが、前年の報告書対象期間と同様に、政府から被害者が訴訟を起こしたかどうかの報告はなかった。しかし、2017年に7人の被害者が起こした民事訴訟に対して、裁判所は未払い賃金への損賠賠償を一部認めた。ただし判事は、被害者が追加で求めた損害賠償請求を却下した。雇用主の中には、技能実習生に対して行われた労働虐待への損害賠償請求の機会を減らすため、労働組合を脱退するよう実習生に圧力をかける者もいた。

防止

政府は人身取引防止のための取り組みを強化したが、全体的な取り組み、特に被害を受ける危険の高い移住労働者の人身取引を防止する取り組みは、依然不十分なままであった。政府は、人身取引対策について全国レベルでの関係府省庁の連携機関と下位レベルでの法執行連携グループを維持し、それぞれが2022年に1度会合を開いた。政府は、政府による人身取引対策のための行動について第8次年次報告書を作成し、2014年人身取引対策行動計画で表明した目標に照らして、施策の取り組み状況を追跡調査した。2022年12月、政府は2014年以降初となる新たな人身取引行動計画を策定した。計画は、有罪判決を受けた人身取引犯への処罰の強化、児童の性的搾取を目的とする人身取引の認知向上、技能実習制度内での労働搾取目的の人身取引を含む労働者の虐待防止を優先事項とした。当局は、警察庁の公式ウェブサイトを含むオンライン、ラジオ番組、ポスター、冊子を通じた情報発信と、NGO、出入国在留管理局、労働基準監督署、日本内外の外国公館へのリーフレット配布を通して、人身取引に対する啓発活動を引き続き行った。政府は、商業的性行為の需要削減に十分な努力を払っていなかった。政府は、海外で児童の性的搾取に関与した日本国民を訴追する域外管轄権を有していたが、3年連続で、そのような事案の捜査を1件も報告しなかった。複数の省庁は、人身取引の可能性がある事案を特定できるホットラインの運用を継続したが、これらのホットラインへの通報が人身取引被害者の認知や人身取引に関する捜査に至ったかどうかの報告はどの省庁からもなかった。

2022年1月から11月にかけて、16万6728人の技能実習生が入国した。2016年成立の「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律(技能実習制度改革法)」は、新規の技能実習生と雇用主が共同で作成する、生活環境、労働時間、その他の要素の概要である実習計画を、厚生労働省が認定するよう義務付けた。外国人技能実習機構は、新たな実習計画を審査し、18万5000件超のうち3565件を認証しなかった。しかし、このような初期審査にもかかわらず、専門家は、当局が送り出し機関の契約と受け入れ機関の契約との一体性、あるいはこれらの契約と実習生の実習計画との一体性を確保する監督手続きを十分に実施せず、その結果、内容に齟齬が生じ、多くの実習生が労働搾取目的の人身取引を含む労働虐待を被りやすくなったと主張した。外国人技能実習機構は、監理団体と技能実習実施機関の検査を引き続き実施したが、検査を行った団体数については公表しなかった。外国人技能実習機構は、労働者の身分証明書を取り上げて保管した、もしくは認証済み技能実習計画に応じた研修を提供しなかった数百人の雇用主に対して、法的拘束力のない指導を行った。法務省と厚生労働省は、技能実習制度への参加を5年間禁止するなどの処分を79カ所の監理団体・雇用主に下し、政府のウェブサイトに名前、住所、賃金未払いや認証済み技能実習計画の不履行などの処分理由を公表した。外国人技能実習機構は、実際の労働条件が認証済み技能実習計画内で雇用主が約束した労働条件から大きく逸脱している事案として358件を認知し、該当する実習計画を無効にした。これは、前年に無効にした実習計画157件から増加となった。このような行政処分に関して、外国人技能実習機構や厚生労働省が人身取引事案を認知したか、また外国人技能実習機構や法務省が刑事捜査に委ねたかどうかについて、政府からの報告はなかった。政府は概して、技能実習制度内の問題を、潜在的な人身取引犯罪ではなく、雇用主と従業員との間の個人的な争い、あるいは労働基準法下での行政違反として扱った。市民社会団体や国際機関は、外国人技能実習機構は職員数が不足しており、技能実習生の審査や労働搾取目的の人身取引などの虐待の申し立てを十分に調査することができなかったと引き続き報告した。例えば、報告によると、外国人技能実習機構は過剰な金銭徴収をめぐる労働契約の審査を行ったにもかかわらず、2021年~2022年に2100人のベトナム人およびカンボジア人技能実習生を対象に法務省が実施した調査では、80%があっせん手数料として平均4000ドルを課されていたと回答した。さらに、妊娠した技能実習生の4分の1は、辞めるよう言われたなどの嫌がらせを受けたと報告した。実習生の中には、雇用主による突然の契約変更や終了に関する仲裁を求めても、外国人技能実習機構は無反応であったと報告した者もいた。外国人技能実習機構は、雇用問題を報告し、母国語で支援を求めることができる技能実習生向けのホットラインを設けていた。ホットラインは191件の人身取引に関する報告を受け、前年の69件から増加した。このような苦情が人身取引被害者の認知や捜査に結びついたかどうかについて、政府からの報告はなかった。

2022年7月、法務省は、技能実習制度に明記されている外国人の研修という目的と、労働者虐待という実態との乖離を埋めるため、関係府省庁による技能実習制度の見直しを行うと発表した。2022年11月、政府は、技能実習制度の改革または廃止、労働者が負う募集費用への対処、労働者に雇用主を変更する権限を与えるかどうかを決めるよう提言を行うため、企業、労働組合、学者、弁護士の代表者から構成される有識者会議を立ち上げた。法務省と有識者会議は、市民社会との会合を複数回開催したが、有識者会議には市民社会の代表者は含まれなかった。有識者会議の最終提言は、2023年秋に取りまとめられる予定となっている。

政府は、14の送り出し国との間で技能実習制度に関する協力覚書を維持した。協力覚書は、依然として、募集行為を規制する日本政府の主要な手段であり、政府は協力覚書を通じて送り出し国と3回の会合を開催した。しかし、協力覚書は依然としてほぼ効力を発揮しないままであった。技能実習生に高額の借金を負わせるような「過剰な金銭」の徴収など、募集機関や送り出し機関による虐待的な労働慣行や労働搾取目的の人身取引犯罪に対応していない国からの実習生受け入れを中止する義務を、政府が多くの場合順守しなかったからである。日本とベトナム政府は、まだ実施されていないが、ベトナム人技能実習生を直接募集できる仕組みをまとめた。報告によると、この仕組みにより、双方の政府にとって、手数料を含む募集プロセスの可視化が向上することになる。政府は複数の送り出し国政府に対して、送り出し機関による10件の不正行為疑惑を報告した。法務省は23の送り出し機関の認証を無効とした。これは、前年の19機関から増加した。

政府は、建設、造船、介護など13産業分野の人材不足を補充するため、特定技能ビザ制度を引き続き実施した。専門家は、同制度は技能実習制度と同様、労働搾取目的の人身取引を含む労働者の虐待への脆弱性を高めており、政府の監督措置が同じく欠けているとの懸念を引き続き示した。特定技能ビザ取得者は、同じ業種内であれば雇用主を変更することができ、資格試験が同じであれば職種を変えることもできる。技能実習生は、技能実習制度内での人権侵害が立証されたなど、限られた場合においてのみ雇用主を変えることができる。NGOは、技能実習生が雇用主を変更する際のこのような構造的かつ実質的な妨げが、依然として大きな障害や搾取の手段となったと引き続き報告した。2022年、技能実習生による転職申請は6700件あった。そのうち何件を認可したかについて、政府からの報告はなかった。NGOは、搾取された技能実習生による合法的な転職申請の約10%を当局が認可したと報告した。日本の法律により、営利目的の人材あっせん機関や個人が免許要件のない「登録支援機関」となり、労働者を募集するブローカーと雇用主との間を有料で仲介することが可能であった。専門家は、このような業務料は、この制度下で入国する移住労働者に対して、借金による強要への危険性を生み出す可能性があると報告した。

人身取引の概説

過去5年間に報告されたように、人身取引犯は、日本人および外国人の男女を労働搾取目的の人身取引および性的搾取目的の人身取引の被害にさらし、日本人および外国人の児童を性的搾取目的の人身取引の被害にさらしている。人身取引犯はまた、東アジアや北米など、日本を越えた送り先で搾取する前に被害者を域内のどこからでも日本経由で輸送する。人身取引犯は、主にアジア出身の移住労働者の男女を労働搾取目的の人身取引の対象とするが、その場所は、日本政府が運営する技能実習制度などの事業に参加する企業なども含まれる。日本で急速に増加する外国人留学生は、虐待的でしばしば詐欺的な就労・就学契約条項のため、単純労働の分野において人身取引の被害者になる危険性がある。北東アジア、東南アジア、南アジア、中南米およびアフリカからの男性、女性および児童は、雇用または偽装結婚のために来日し、性的搾取目的の人身取引の被害にさらされる。人身取引犯は、バー、クラブ、売春宿およびマッサージ店での性的搾取を目的とした人身取引のために外国人女性を日本へ入国させやすくしようと、外国人女性と日本人男性との偽装結婚を利用する。人身取引犯は、時には募集に際して給与の1年分以上に相当する借金を負わせるなど、借金による強制、暴力または強制送還の脅迫、恐喝、パスポートやその他書類の没収、その他の精神的な威圧手段を用い、被害者を強制労働や商業的性行為の状態にとどめる。雇用主は、多くの移住労働者に、生活費、医療費、その他の必要経費を支払うよう要求し、労働者を債務による強制にさらしている。売春宿の運営者は、素行が悪いとして恣意的に被害者に「罰金」を科すことがあり、それにより被害者が借金を負っている期間を強制的な措置として引き延ばしている。報告書対象期間に、人身取引犯が求人情報ウェブサイトやソーシャルメディアを介して高齢の外国人と接触し、宗教あるいは退職関連を装った詐欺を用いて、隠蔽された薬物をアフリカ諸国から日本を経由して米国にだまして運ばせたとの報告が複数あった。報告書対象期間にはまた、ある国際機関がカンボジアの電話詐欺拠点にて、少なくとも1人の労働搾取目的の日本人人身取引被害者を認知した。

人身取引犯は、日本人と外国人、特に十代の家出した少年少女を、性的搾取を目的とした人身取引の被害にさらしている。組織犯罪とつながりがあることが多い「援助交際」やさまざまな形態の「JK」ビジネスが、性的搾取を目的とした日本人児童の人身取引を依然として助長している。報告によると、中国、韓国、ラオス、フィリピン、シンガポール、ベトナムからの児童が、こうした場所で搾取されている。COVID-19の感染拡大により、失業および家庭内暴力が急増し、それにより、特に家出した児童など、一部の日本人女性や少女が「援助交際」に従事する危険性が高まった。「JK」バーの経営者は、LGBTQI+の青少年を含む一部の未成年の少年少女を、ホステスやクラブのプロモーターとして労働搾取目的の人身取引の対象にする可能性がある。高度に組織化された商業的な性のネットワークが、地下鉄、若者のたまり場、学校、インターネット上などの公共の場で、被害を受けやすい日本人女性や少女を標的として、商業的性的行為を目的とした施設、小規模音楽演奏会場、小売店舗内、リフレクソロジー店にて、多くの場合借金による強要により性的搾取を目的とした人身取引の被害者とする。こうした女性や少女は貧困状態で生活しているか、または認知障害がある場合がある。モデルや芸能事務所に見せかけた団体の中には、詐欺的な募集手段を用いて、日本人男性、女性、少年および少女に不明瞭な契約書に署名するよう強要し、その後、法的手段をとる、あるいは不名誉な写真を公表すると言って脅し、ポルノへの出演を強要する団体もある。トランスジェンダーの若者や大人の中には、自身のジェンダーを肯定するケアの資金源として、規制されていない都市部の歓楽街で雇用を求め、その結果、労働搾取や性的搾取目的の人身取引に利用される者もいる。入国を仲介する日本の民間業者は、日本人とフィリピン人との間に生まれた児童とそのフィリピン人の母親が日本に移住し、日本国籍を取得することを、多額の手数料を取って支援する。日本到着直後、借金を返済するため、性的搾取目的の人身取引の被害者となる者もいる。入国仲介業者に見せかけた組織犯罪集団もまた、仕事があると偽って、このような家族を日本に誘い、女性を歓楽街で労働搾取目的の人身取引や性的搾取目的の人身取引の対象とする。日本人男性は依然として、アジアの国々における児童買春旅行への需要の源泉の一部である。

労働搾取目的の人身取引の事案は、技能実習制度において引き続き起きている。送り出し国と日本との間で過剰な金銭徴収の慣行を抑制することを目的とした二国間合意があるにもかかわらず、バングラデシュ、ブータン、ビルマ、カンボジア、中国、インド、インドネシア、ラオス、モンゴル、パキスタン、フィリピン、タイ、トルクメニスタン、ウズベキスタン、ベトナムからの技能実習生は、漁業、食品加工業、貝類養殖業、造船業、建設業、繊維生産業や、電子部品、自動車、その他の大型機械の製造業で職を得るために、数千ドルの過大な労働者負担金、保証金や不明瞭な「手数料」を母国の送り出し機関に支払っている。技能実習制度の雇用主は、明記された技能実習制度の本来の目的に反して、多くの実習生を技能の教授や育成が実施されない仕事に従事させている。事前に合意した職務と一致しない仕事に就かされている技能実習生もいる。これら40万人の労働者の中には、移動と通信の自由を制限され、パスポートとその他個人的な法的文書を没収され、強制送還や家族への危害といった脅しを受け、身体的暴力、劣悪な生活環境、賃金差押え、労働搾取目的の人身取引を示唆する状態に置かれた者もいた。技能実習生に「処罰合意」への署名を義務付け、妊娠したことなどで労働契約を履行できない場合、何千ドルもの違約金を科す送り出し機関もあった。契約を結んだ技能実習の仕事を辞めた実習生は法的地位を失う。このことを利用した人身取引犯の強要により、労働搾取目的や性的搾取目的の人身取引に追い込まれる者もいる。元技能実習生を含む、特定技能ビザ制度下の外国人労働者の一部は、人身取引の危険性にさらされている可能性がある。